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□まくら
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「おい、セバスチャン…アレはどうした」


「…申し訳ございません、坊ちゃん…実はメイリンが…」


全て聞く前に理解できた。
アレは残念な事にメイリンの手によってボロボロにされたか、汚されたか
別に物に凝る事はないのだが、アレは違う。
というより、ないと自分が困る



「今まで他の物で試しましたが駄目でしたしね」


「…そうだな」


「しかしそうなると坊ちゃんが…」


どうされるんですか?
目でそう問うセバスチャンに、シエルもただ悩む。
何かを思いついたのか、手招きされ近づく…



「は?」


視界が回り、目の前には天井
何があったのかと目を瞬かせ、横を見れば真面目な表情のシエルが視界に入る。
ぎゅっとセバスチャンの腰を抱きしめ、何かをブツブツと呟いている。



「…あの、坊ちゃん?」


「うん、これならいける」


「はい?」


何がですか?と聞こうとするが、聞こえてきた寝息に言葉は溜息にかわる

お気に入りである枕でないと、この主人はどうやら寝つきが相当悪い。
最悪翌日隈を作った状態でいる事もあったため、流石に執事として主人の体調管理が危ないと思うほど
違う枕を試したが、どれも素材が、柔らかさが、など結局あの枕以外は駄目だった。

それを今朝メイリンが思い切り破ってしまった為、中身が散った。
中身の量が多少変わるだけでも、敏感な主人はきっと眠れないだろう。



「…」


どうしたものかと思っていたが、これはどういう事だろうか。
ベットに転がされ抱きつかれ、ただそれだけなのだが熟睡している様子に首を傾げる。

正直燕尾服を着たままこの状況下にあるのは、セバスチャンにとって好ましくはない。



「服が、皺になるんですが…仕方ありませんね」


がっちりと回された腕は、意外に力が強く
無理に剥がせば起こしてしまうかもしれない。



「私が代用ですか、坊ちゃん…」


朝の仕込みが残っていたのですが…





















「おはようございます、坊ちゃん」


「…なんだこれは」


「昨夜坊ちゃんが私を抱きしめたまま眠られたので、動けませんでした」



目が覚めれば、いつもはない温もりに寝ぼけたまま擦り寄っていたら…
段々思い出してきた
確かにあの枕の替わりはいくら探しても見つからなかったが、まさかこんな身近にあるとは思わなかった。



「…今度からお前が代わりに枕になれ」


「すぐにいつもの枕も直します」


「別になくても僕は構わない」


いっそこのまま襲ってやろうか
自分にとって良くない事を考えたのを察したのか、セバスチャンが腕から逃げ出そうと身じろぐ




「まだ起床時間まで余裕があるな」


「そんな事をしている時間はありません」


「たまには有能な執事が寝坊しても誰も何も言わないだろ」


乱れていたシャツの隙間から手を入れれば、面白い程いい反応が返ってくる。
これは当分枕の代えはいらないな…





「で、ですからっ今日中に直します!」


「直さなくていい、命令だ」


「は?!今日も私を枕代わりにされるおつもりですか?」


当然だ
そう言う笑顔はとても輝いて見えた





+++++



「あれ?今日セバスチャンさんは」


「坊ちゃんからの伝言で腰痛でお休みだそうですだ」


「…そ、うだろうな」


「バルドさんなんで前屈みなんですかー?」


フィニの問いに、顔を真っ赤にしながら煩いと怒鳴る。
そのままどこかへ走り去ったのを、メイリンと二人ただ首を傾げるしか出来なかった。


「あれ、メイリンさんそれ何ですか?」


「これですだか?坊ちゃんが暫く預かって欲しいって言われた枕ですだよ」


「ふーん…あれ?坊ちゃんそれじゃないと駄目って…あれー?」


よく分からなくなったから、まあいいや!

その頃バルドは一人自己嫌悪で項垂れていた。



「俺は別に覗くつもりなんて全くなかったんだよ、あー…そうだ俺は悪くねぇ!朝っぱらからヤって…ヤ…あ゛―!!!」


バルドは珍しく朝早く起きたのだが、いつもの時間にいないセバスチャンを不思議に思いながら
居場所の分かる主人であるシエルに聞こうと行ったのがそもそもの間違いだった。

声が聞こえたのを不思議に思い、覗いた…


濡れ場だった



「何で俺がこんなっ…一人で処理してんだよチクショー!!!」


シェフの情けない怒りの声が聞こえたとか聞こえなかったとか…








END
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