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□Snow White
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執事の朝は早い、いつもならばもう少ししてから使用人を起こすのだが…



「いつもこうだと楽なんですが」



窓から見える庭を見れば、既に雪だるまが数個出来ていた。
どうやら早く目が覚めたフィニが他の二人を起こし、はしゃいで遊んでいるようだ。
始業時間までであれば特に問題もないが…

雪球を投げて遊んでいるのは構わない、それが殺人的破壊力をもつというのなら話は別だ。
既に悲惨な状況になりつつある庭に、思わず溜息が溢れる。



「…今日はお客様がいらっしゃる予定でしたね」



雪かきでもしておきましょうか。
もう使用人の事はこの際、シめましょう













「おはようございます、セバスチャン」



「……ああ、アッシュさんでしたか。おはようございます」



いつもならば間を空けず返すのだが、今の間は…?
手にしていたスコップを立て掛け、アッシュを屋敷の中に招き入れる。
外の寒い空気から包まれるような温もりに、ホッと息を吐く。
勝手知ったる…という所だが、そこまで礼儀を欠く事はせず素直に案内される



「お手紙ですね?」



「ええ、女王陛下からです」


スッと差し出し手紙をセバスチャンに手渡し、湯のみに口をつける。
ほんのりとした苦味がまた美味しい。
家令であるタナカと所謂お茶友達になっているのだが…
自分としては彼ともお茶をしたいというのが本音



「しかし、庭が悲惨な事になっていますね」


「ええ、まあ…いつもの事なので」


「そうですか。お疲れのようですね…よければ今度マッサージをしましょう」



女王陛下の執事であるアッシュにとって、時間とは作るもの。
言葉に疑問符をつけず、かと言って押し付けるようには言ってはならない。
ニッコリ微笑めば、セバスチャンに断れる筈もなく



「そうですね、また今度お願いします」


ニッコリと微笑み返す


「セバ「ああ、ですが勿論ただのマッサージでお願いしますね」



「ほっほっほ」



…見破られていたらしい
この様子だとタナカさんにも、なんと言うことだ。
だが自分とて諦めきれない、最後に触れたのはいつだった?
身体が、魂が求めて止まないというのに…


「そろそろ私は行きますね」


「お見送りします」


「え、いいのですか?いつもでしたら時間が…と」


クスと笑みを溢し、視線が絡み合う。

表に出す自分とは違い、彼はいつも此方が引き出さない限り分かり難い。



「貴方は保護色で見えにくいですね」


「…もしかして、先程のはそれで?」


「雪とほぼ同化、とまではいきませんが」


なんという事だ!
私は彼ならたとえ闇夜だとしても見つけ出せる自信があるというのに…
これが愛の差だろうかと思うと虚しくなってくる。



「アッシュさんは、雪をどう思われますか?」



「…今嫌いになりました」



「クス、そうですか…」


汚れたものを多い尽くすような真っ白な結晶
だが実態は空気の塵を含む汚れたものでしかない
まるで天使でありながら手を血で染める私のようだ。

ああ、けれどこの白い雪に佇む目の前の悪魔はとても綺麗だと思う。
白が彼を一層惹きたてる



「アッシュさん?」


「まあ雪の白さで貴方が見つけやすい、という点では好きでしょうか」


「そもそも視力になど頼らなくても私達には関係ありませんがね」


ほら時間が推してるんでしょう?と暗にさっさと行けと言われてしまった。
これは多分、そう…きっと照れ隠し
まだ分からない事が多い愛しい悪魔は、全てを曝け出してはくれない。




「ッセバスチャン!」


「え」


ポスリと雪の上に押し倒された。
背中が冷たい感触と自分の上に多い被さるアッシュに、漸く自分の状況が理解できた。
原因は飛んできた雪球
それは分っていたし避けるのは当然で、避けようとした瞬間押し倒された。



「…何を、なさっているんですか?」


「いえ、条件反射的につい」


自分を庇い押し倒したまではよしとしよう、いやらしく這う手は思い切り抓ってみる。
眉を下げ離してもらえますかと訴える天使は、なんとも情けない事か。



「こうでもしないと触れられないと思いまして」


「はあ、今度からは遠慮なく蹴り潰しますからね」



なにを、とは言わない。
サッと蒼褪め、慌てて上から飛びのいた。
冷たい雪から身を起こし立ち上がろうとすれば手を差し出される
それには素直に手を借りる事にしておく。
正直これを無視すると後がウザイのだ



「…はあ、では私は陛下の所戻ります」


「全く、仕方のない方ですね」


「?セバ―…




















「アッシュ、どうかしたの?」



「い、いえ何でもありませんよ陛下」



去り際に贈られた彼からのキス
幾ら言おうとも素面では決してしてくれないというのに…

『こうも白ばかりだと、不本意ですが貴方を連想させます』

ですから、私はあまり雪は好きではありません。

そう言い残すと、アッシュに背向け屋敷へと戻っていった。
呆然と立ち尽くし、言われた言葉が頭の中をぐるぐると回る。
漸く理解できた時、思わず顔を片手で押さえる。
あまりにも不意打ちすぎる


さっさと扉を閉めた彼は耳まで赤い気がしたのは、きっと気のせいではない。
もうそのままいっそ襲ってしまいたかったが、そんな事をすれば半殺しに遭うのは目に見えている。

さっさと時間を作って会いに行きたい

嗚呼、早く抱きしめたい。



「アッシュ、この書類追加してもいいかしら?」


「陛下…わかりま「ふふ、冗談よ」



え?思わず陛下に間抜け面を晒すが、互いに気にしてはいない。



「愛しい人が待っているのでしょう?行っておあげなさい」


ヒラヒラと手を振り、アッシュに微笑むヴィクトリア
瞬間部屋に残ったのは白い羽一枚だけ…



「時間が許す限りは共にいたいものだもの、ねえ?アルバート」















セバスチャン!会いに来ました!!


何時だと思ってるんですか、迷惑です!






殴られた頬は痛いですがどこか嬉しそうに見えたのはきっと気のせいではありませんよね!





END
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