MAIN

□How I Love
2ページ/4ページ





「お帰り、思ったより遅かったね」



「申し訳ございません、只今戻りました」



途中で降ってきた雪に、人間らしく頭と肩に多少乗せた状態で屋敷に着いた。
それを出迎えたヴィンセントは苦笑して迎え入れる
パタパタと雪を落としてから入れば、温かい空気に包まれる。
そっと頬に手が添えられ、少し濡れてしまった髪を梳かれる…



「すごく冷たくなっているじゃないか」



「これくらいでないと不自然でしょう?」



「…確かに人間らしく、とは言ったけどね」



荷物を持っていない方の腕をとられ、引き寄せられる。
やわらかな温もりが、一瞬だけ額に触れ、離れる。
それがキスだと理解すると、真っ赤になって固まった。



「自分を大切に出来ないなんて、私は心労で倒れるかもしれないね」



「…も、申し訳ありま、せん」



「うん、次からは気をつけなさい」



次は何をするか分からないからね。
耳元で囁けば、セバスチャンはバッと身を離し吐息が掛かった耳を押さえる。
先程まで冷えていた身体は、今では熱いくらいに火照っている。



「き、着替えてきますので!しちゅっ失礼しますッ」



慌てて走り去る姿に、口を手で押さえ笑いを堪える。
可愛い悪魔には、どうしても意地悪をしたくなってしまって仕方ない。
そもそも反応が可愛過ぎる
あそこまで純な反応は人間ですらあまりないというのに…。
まるで異性と付き合った事などない真っ白な少女のようではないか



「…もう結構色々してるんだけどね」



それでも反応だけは変わらず初々しいまま












閉めたドアに背を預け、息を吐く。
全く持って心臓に悪い人だと思う
こんな風になるなんて、彼と契約を結ぶまで知らなかった。

殺風景だった自分に与えられた部屋は、気づけば彼の気まぐれで買ってきた物で溢れている。
まあそれでも、普通より少ないと言えるのだろうが…



「…はあ」


多少濡れてしまったコートを脱ぎ、下はシャツだけは着替えようと手を掛ける。
ボタンを外すのすら時間が掛かる力の入らない手に、苦笑するしか出来ない。

ふと顔を上げれば鏡に自分が映っていて、まだ多少顔が赤い事に気づく。
ボタンが外され肌蹴たままのシャツの隙間から覗く肌に、鏡に映る方の自分に触れる…

ふと昨夜の情事を思い出し、身体が火照る。
熱を持て余しどうしたものかと困惑気味に下腹部に手を伸ばす…






「セバスチャン」



「ッひ!」



「随分遅いからどうしたのかなと思ってね、なにをしていたのかな?」



恐る恐る振り返れば、ドアに寄り掛かり自分を見て笑っている主人の姿。
自分の格好を思い出し、あまりにも惨めで情けない事に俯く。




「ちゃんとノックはしたんだよ?」


「…」


「シエルが君はまだ帰ってないのか、と不満そうにしていたよ」



あの子も君が好きらしい。
クスクスと笑って、ゆっくりとセバスチャンに歩み寄る。
出来る事ならこの場から逃げ出したいが、それは不可能だ。
そっと顔を上げれば交わる視線に、身動きが取れない

この瞳には逆らえない



「もう一度聞くよ、なにをしていたのかな?」




嗚呼、貴方は優しい声色でそうやって私を堕としていく

自分が何を思い、何をしようとしたか全て自らの口から暴かされ辱める。
それでも更にそれすら熱を増す行為にしかならない事を、彼も自分も知っている。

羞恥のあまり涙を浮かべた執事をそっと抱き寄せる。
よしよしと撫でていると、落ち着いてきたのかようやく肩の力を抜いた。



「続きをしてもいいんだよ?」



「え、あの…その」



「そのままだと苦しいだろう?ああ、手伝ってほしいのかな?」



にっこりと笑いかければ、フルフルと頭を横に振る。
否定と取れるが、それでも心の奥では真逆だというのが手に取るように分ってしまう。
恐らくそれは本人すら気付いていないのだろうが…
嫌だと言う割りには、あまりにも素直に快楽に流される






「ああ…苛めすぎたね」



涙の溜まった目尻にそっとキスをし身を離せば、目を瞬かせ困惑気味に見つめてくる。



「そんな風に見られると我慢が利かないだろう?もうすぐ夕食だから、なるべく早く来るんだよ」


そういい残して部屋を出て行く。
パタンと閉められたドアを背に、ヴィンセントはクスっと笑みを溢し、部屋の中に取り残され困惑しているであろう執事を思う。



「本当に、可愛いなあ」


あのまま食べてしまいたかったが、今は時間がそれを許さない。






夕食時に来た執事は、先程の様子など微塵も見せず給仕をしていた。
まあそれは流石だと思う
それに…

あの姿は自分の前だけでしか見せたくはない



雪が降りしきる寒い日だというのに
熱くて仕方ない








次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ