MAIN

□投げ渡すは紅色の薔薇
3ページ/4ページ




あの日以来屋敷に来る度にエリザベスはセバスチャンも構うようになった。
それにはセバスチャンも苦笑しつつも、それを受け入れていた。
それを傍目にシエルは見えぬように苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる

全てが面白くない

無自覚にもセバスチャンを呼び出す回数が増えた、それにはアイツも気付いているが何も言ってこない。
それが一層苛立ちを増す原因だ。
何か厭味の一つでも言ってくるのなら、こちらもそれに返せるというのに…。


アイツの想う相手が知りたくて、下らなくも例のカメラで写真を撮ろうとした。
勘がいいアイツの事、何故…かなど知っている筈だ。
それでもやはり何も言ってこない。
撮るはずが逆に撮られる羽目になり、それを見ても『光栄です』としか言わない。



「…何を望んでいるんだ、僕は」



セバスチャンと自分との関係は所詮契約上でしかないというのに。
それでも…



「僕は、貪欲だ」


叶うのなら全てが欲しかった
全てを消し去ってしまいたかった

『命令』を使えば、済む事

ただ一言『僕を愛せ』『ソイツを忘れろ』

それを言うだけで、形だけの望みは手に入るだろう。
それでは全くの無意味なのを理解している。
クダラナイそんな御飯事などしたくはない



自室に戻り、チェスボードをただ眺める
ゲームは得意だというのに、駒をどう進めればいいのか解らない。
これが実際生死を掛けたゲームならば、負ける気は全くない
セバスチャンに関してだけが、思うようにいかない。
背凭れに身体を預け、くるりと周り窓の外を眺める。

憎らしいくらいの青空だ




「…僕らしくないか」




これではただの弱い人間ではないか。
こんなのは嫌だと思うのに、それでも胸の奥がキリっと締め付けられるような感覚
苛立つ事を必死で抑えようとしている哀れな姿
振り回される情けない人間、滑稽だ


構わない、それでいいじゃないか
最期のその時までアイツの時間を奪えばいい。
それまでに深く刻みつけれればいい、アイツの中に僕という存在を…



「…覚悟しておけよ、セバスチャン」



僕は、諦める事はしない。
そう…最期まで
もしアイツが僕を見たとしたならば…
最期の最期で縛り付けるだろう


なんたる浅ましさ、ああだが…それが人間だ


そうだろう?セバスチャン















『最期までお傍におります』




ただその言葉だけが



自分を保てる唯一の糸











END
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ