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□投げ渡すは紅色の薔薇
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ねぇ。セバスチャンは大切な人、いるの?



無邪気に問いかける少女に、目を瞬かせ。
シエルとエリザベス、二人のティータイムでの雑談
ただその中に甘い会話があるのは、少女にとって主人が婚約者だからだろう…
静かにいつものように給仕をしていれば、突然振られた話題。

いつもならば、自然とスラスラと出てくる言葉も今回ばかりは出てこなかった。
それにはエリザベスだけでなく、シエルも怪訝に思う。
以前に赤い死神は言った、悪魔は何も愛してなどいないと
だが実際の所はどうなのか、聞いた事も無い。
どうとも思っていないのなら、上辺の言葉で答えればいいというのに…

このような他愛もない会話に、何故戸惑う…


セバスチャン




「大切な、方ですか」



「あ、の…聞いちゃいけない事だったかな」



「いえ、大丈夫ですよ」



にっこりと笑みを浮かべ、冷たくなった紅茶を淹れ直す。
暖かな日差しが差し込む窓辺で、美味しいスウィーツと紅茶
なんてことはないのんびりとした空気を、壊してしまったのかと少女は困惑する。
大丈夫だと答えた執事に、ならどうしていつものように答えなかったのかが気になる。




「そうですね、愛しい方はいました…いえ。いますよ」



「…セバスチャン?」



「私の愛した方は、どなたも私より先にいってしまわれますので」



いつもおいていかれる側なんです。
知りたかったのでしょう?例えそれが相手を傷つけるのだとしても好奇心は抑えられない
気にする事は無い、それが人間なのだから
それに自分もその程度聞かれた所で、何て事はない。
傷つく事はないのだから
困ったように眉を下げ、エリザベスはシエルへと視線を向けるしか出来ない。
だが助けを求めた相手も、困惑しているようで…膝の上の手を握り占める。




「セバスチャン!」



「はい?」



「私もシエルもおいていかないから」



ごめんなさい、辛い事を思い出させてしまったのなら…
自分もシエルもまだまだ長生きするつもりだ、セバスチャン一人をおいていく事はない。
エリザベスの言葉に、再び目を瞬かせふっと笑顔を浮かべ礼を言う…。

本当に純粋というのはこういった人間を指すのでしょう
傲慢な人間ばかりではないのは、本当は知っている。
ただ自分の周りに集まる類の人間が、そうだったというだけ
『おいていかない』それは絶対不可能な事だ。
人間は悪魔と違い寿命は儚く短い
その時点で、その言葉は自分にとって意味を成さないモノとなる。





珍しくエリザベスはシエルではなく、セバスチャンの腕を引いて庭へと出て行った。
困惑するセバスチャンにシエルは付き合ってやれと言われ、素直にそれに従った。
窓から見える庭を…二人を見つめ、ただ一つ溜息を零す。
動揺なんて、らしくない。

言っていたではないか、赤い死神は
ならば何か、あれは嘘であったというのか
あの悪魔は愛を知っている
それも…



「僕ではない、他の奴か」



だがきっとソイツは、アイツをおいて先に逝ったのだろう。
自分はまだ生きているし、最期まで共にいるとアイツは言った
その後はどうなるのか、何も感じる事もなく元の悪魔としての…

…何を考えている

何故僕はアイツの事ばかり考えている、これではまるで…



「くそっ」



身も知らぬ過去の誰かに、嫉妬している自分がいる。
認めたくないのに、気付いてしまった。
ほんの一瞬だけ見た、血のような赤い瞳の奥

戸惑い

アイツが愛した奴は、どんな人間だったのか




シエル・ファントムハイヴともあろうものが…情けない











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