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□How I Love
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一人書類に目を通しながら、今頃もう使いは終えただろうか、と今はいないセバスチャンを思う。
昨日頼んだばかりだが、仕事の早い彼の事だから今から楽しみで仕方ない。
『セバスチャン、ちょっといいかい』
『いかが致しましたか?』
部屋を去ろうとドアに手を掛けた所を呼び止め、珍しいタイミングで呼び止めたものだから小首を傾げている。
この寒い時期、妻子にマフラーをプレゼントしたいと告げた。
高級な服を欲しがらないレイチェルには丁度いいかもしれない。
確かに、とセバスチャンもそれには頷く。
『もうお決まりでしたら取り寄せますが』
『いや、実はその事で君を呼び止めたんだよ』
昨日の事を思い出しながら、手が時々止まる。
「困ったな、仕事がなかなか進まない」
「後はこれくらいですね」
一人使いとして街に来ていたセバスチャンは、用事とは別の店に立ち寄っていた。
本来その店を利用するのは婦人が多く、そのせいか目立っていた。
これも全て先日主人であるヴィンセントに言われた事の為、好奇の視線など然程問題はない。
手に取った毛糸の質感を確かめ、頭の中で配色を決める。
此処は所謂手芸の為の素材を売っている店になる
「お買い上げ、ありがとうございました」
何故か頬を染めて品物の詰められた紙袋を差し出した店員の声を背に、店を後にする。
息が白い事に気づき、確かに一段と寒さも増してきた
身体があまり強くないレイチェルとシエルに、父親としてマフラーのようなものをあげたいのは当たり前かもしれない。
しかし何故…
「私の手作りなのでしょうか」
何でも完璧でありたいから、手芸くらい出来るのだが…。
まあ主人が手編みのマフラーというのも、あまり想像は出来ない。
二人分編めばいいのかと思っていたら、彼は自分のも作って欲しいと笑った。
『君の手作りなら私も欲しいからね』
微笑む彼に、顔が熱くなり、それを隠すように部屋を出てきてしまった。
当然隠せる訳もなく、クスクスと笑っていたのを背中で聞いている。
しかし一つだけ『お願い』があったのだが、別段気にしてはいなかった…けれど
「まあ、渡した時に聞けばいいですね」
さあ今は帰って仕事をしなくては。
今日はエリザベスも来ているから、シエルと二人で悪戯でもしていれば…少々不安があるというのが正直な所。
ふと視線を袋の中に落とし、目を細める。
濃紺のような青系統の色は似合うと思って買ったが…
実際につけてもらわないとやはり分からないもので、少し不安になる。
「いけない、少し時間が掛かり過ぎましたね」
懐中時計を見、屋敷へと向かう。
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