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□Sweet sweet...
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「セバスチャン、おいで」


主人であるヴィンセントに手招きされ、小首を傾げ傍に寄る。
そっと優しく腕をとられ、軽く引かれるだけで油断していた身体は簡単によろめく。
ヴィンセントは難なく受け止めると座っていた自分の膝上に乗せた。



「あ、あの…ヴィンセント様?」



何故こんな行動に出たか理解出来ず、ただほんのり頬を染め、目を瞬かせる。
ああ可愛いなと思って笑えば、視線を逸らされた。
さっきより赤くなった顔に、単に照れているのだとういう事は見て分かる。
漸く自分を名前で呼んでくれるようになった優秀な執事は、身長の割には軽いんだと知る。



「あの、重いでしょうしそろそろ降ろして…」



「駄目だよ」



にっこり微笑んでそう言えば、困惑気味に見つめてきた。



「私がこうしていたいんだ」


そう言ってしまえば、セバスチャンに拒否権はなくなる。
机の上に置いたままのスウィーツに視線を遣り、片手でセバスチャンの腰を支える。

自分の要望通り、『生クリーム』のたっぷり使われたシンプルなショートケーキ
アフタヌーンティーの時には、必ずこれにしてほしいと昨夜告げていた。



「ヴィンセント様?」



「君の作るスウィーツより美味しいものは、今まで食べた事がないんだ」



「?お褒めに預かり光栄です」



何が言いたいのか全く分からない。
けれど決して居心地が悪い訳ではなく、大人しくされるがままになっている…
本当の所、この体勢はやめてほしいが



「舐めてごらん」



「え…」


気づけば目の前に差し出された人差し指には、真っ白な生クリームがのっていた。
そのクリームとヴィンセントを交互に見ると、ボンッと音がしそうな勢いで真っ赤になる。
普段があまりにも肌が白いものだから、余計に赤く見える。
何かを言いたいのだろうが、口をパクパクとしているだけで言葉が出てきていない。

その様子があまりにも可愛いものだから、つい笑ってしまう。



「…からかうのはお止め下さい」



その笑いをからかいと受け止めたセバスチャンは、脱力して項垂れる。
勿論からかい等ではなく、本気だった。



「…ッ!?な、何を」



「私は舐めてと言ったんだよ?それなのにいつまでも口を開けないから」


口のすぐ横にべっとりと付けられたクリームに、眉を下げて視線を彷徨わせる。
苛め過ぎたかな?等と思いながらも、それをやめようとしない自分がいる。
だって仕方がない

可愛いものはどうしても、苛めたくなる
それはどうも彼限定だと言う事に、最近気づいたが。



「ひゃンッ!…ヴィンセント様!!」



「クリームは食べるものなんだから、食べただけじゃないか」



「だ、だからといって私につけたのを…な、舐めっ」



ぎゅっと抱き締めれば、急に大人しくなる。
あまりからかうと暫く口を聞いてくれない事もあるので、そろそろ止めておくべきだろうか・・・。
よしよしと撫でていると、軽く体重を預けてきた。
決して自分からは甘えて来ない執事は、こんな時くらいしか素直にならない。
妻や子がいるからと、遠慮しているのは解かっている。

何を言っているんだと言われそうだが、それとこれとはまた別なのだ。
それに今日は妻子二人は出かけていていない



「セバスチャン」



「はい?」



「午後の予定はなし、で…良かったかな?」



今朝言われたスケジュールは、確かに午後は珍しく何もなかった。
確認などしなくとも、覚えている筈なのに何故…
だが問われた以上答えるのが身についている為、すぐそうだと答えた。

急に襲った浮遊感に、一瞬何が起こったかセバスチャンは理解できなかった。
だが自分が横抱きにされ抱えられているのだと分かると、慌てて降ろすように言う。
決して暴れないのは、それでヴィンセントに負担がいくと分かっているからで…



「あ、の…いくら午後のご予定がないとは言え、このようなお時間からは」



「何だいセバスチャン、期待しているのかな?」



「ち、違います!お天気もいいのですから何も室内に篭らなくてもッ」



結局降ろしてもらえず、ベッドにポスンと落とされた。








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