帝国学園サッカー部は、部外者の見学を禁止している。というのも、どこで誰が
練習の様子を観察し研究しているかわからないからだ。だから他校の人間はもち
ろん、学園の人間であっても例外はなかった。
ただ、俺たちと同じ学年の年ごろの女子ってやつは、想う男子の応援したいもの
らしい。だから、スポーツドリンクやらタオルやらクッキーやらを応援という名
のもとの下心でラッピングして贈りたがるのだ。
授業終了から部活開始までの十五分という短い時間にロッカールームの出入口に
女子がたむろすのは、こういった理由からだった。
「辺見せんぱい、こんにちは。今日も早いっすね」
「おう」
それは今日の部活前でも同じだった。ロッカールームに入る手前で女子の波に足
止めをくらう、源田や佐久間をはじめとした帝国イレブン。そいつらを横目にす
るりとロッカールームに入りさっさと着替えてフィールドに出るのが、俺の日課
。
つまり俺には、差し入れをくれるような女子はいない。
「毎日まいにち、よくまあ飽きないですよね」
「なにがだ?」
「あそこの女子たちですよ」
「なんだよおまえ、そんなこと言って、」
おまえだってもらってるんだろ、と何でもないように言ってみせようとして、失
敗した。尻すぼみしてしまった言葉を苦々しく噛みしめる。
俺がもらえないから悔しいんじゃない、成神がもらっているから悔しいんだ。
成神に嫉妬しているんじゃない、たとえ数分でも成神に近づいた女子に嫉妬して
いるんだ。
どうしてなのかは、わからないけれど。
「恋、してるんですね」
「え、」
「あの子たち。源田先輩や佐久間先輩に恋してるんでしょ、かわいいですよね」
「そ、だな」
どきりとした。俺のことかと思った、から。
たしかに、恋する女子はかわいいかもしれない。でも成神の口からはそれを聞き
たくなくて、俺は適当に相づちを打った。こいつも、あそこにいるような女子が
好きなんだろう。いやもしかしたらあの中の誰かのことが好きなのかもしれない
。
それが普通なんだ。
俺が普通じゃないだけなんだ。
なのにこいつの口からはそれを聞きたくないなんて、俺はどうかしてるのかもし
れない。
「でもね、」
「、おう」
「辺見せんぱいが、いちばんかわいいですよ」
「……………は?」
「だってせんぱい、恋してますもんね」
「な、」
「相手もちゃあんと知ってるんですよ。たしか、ひとつ下の後輩だったかなあ」
「え、」
「せんぱいったら無意識にやきもちなんてやいちゃって、かわいい。いつ言って
くれるかなって待ってたんですけど、もう我慢できなくなっちゃいました」
「お、おまえ、」
「ね、せんぱい、部活前十五分間は毎日暇でしょ?それなら、」
おれと恋でもしませんか。
その質問はもはや質問ではなく確認だったし、心臓はどくどくとうるさいし、そ
んな俺をほったらかして成神が顔を寄せてくるし。
こいつの言葉を否定することも重ねてくるくちびるを避けることもできないとい
うことは、もはや決定事項だった。
おわり