…したい10題

□触りたい
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触りたい。
この顔に、この身体に、このかわいい存在に。

高野政宗は律を腕に抱え込んだまま、鍵を取り出し、自室のドアを開けた。
半ば引きずるような勢いで、律を室内に引き入れる。
そして鍵をかけると、靴も脱がないうちに唇を寄せ、くちづけた。
律は驚いて「んんっ」と声を上げながら、身を捩る。
壁にもたれながらズルズルとくずれて落ちてしまいそうだ。
だが高野はしっかりと律の身体を抱き込んで、離さなかった。

「た、高野さん」
角度を変え、何度もくちづけられた律の身体から次第に力が抜けていく。
本当はこのままベットに倒れこんで、身体を重ねてしまいたいと、高野は思う。
とにかく律が足りないのだ。
触りたい。この顔に、この身体に、このかわいい存在に。
だがさすがに瀕死の重傷を負って退院したばかりの今、抱くのはダメだろう。
それでは律の身体が壊れてしまう。

「高野、さん、痛い、です。。。」
息も絶え絶えになった律が、身を捩って訴える。
知らないうちに抱きしめる腕に、力が入ってしまったらしい。
まだ完治していない傷が痛んだのだろう。
高野は慌てて律から離れると、律はその場に座り込んでしまった。
高野が「悪い。大丈夫か?」と、心配そうに律の顔を覗き込む。
律が「平気です」と小さく答えると、高野はホッとした表情になった。

「帰らないでくれないか?」
高野が律に手を差し伸べながら言った言葉は、弱々しいものだった。
普段の強引でやり手の編集長からは想像もつかないものだ。

切なくて、胸が痛い。
こんなに弱った高野を初めて見た律は、混乱しながらそう思った。
そしてごく自然に、差し伸べられた高野の手に自分の手のひらを重ねていた。
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