…したい10題

□殴りたい
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まったくどいつもこいつも。
片っ端から殴ってやりたいと思った。

横澤隆史は勝手知ったるエメラルド編集部に、乗り込んできた。
目指すは編集長の席に座る男。
だがいつものように怒声をあげながらではない。
何も言わずに編集長−高野の席の前に立った。
だがその顔は静かな怒りが満ちている。
いつものどこかお約束のノリではない。
暴れグマ・横澤は、本気で怒っていたのだった。

「高野、ちょっと来い」
横澤の声に、パソコンで作業をしていた高野が顔を上げた。
いつも目聡い高野は、いつも横澤が声を上げる前に来ていることに気がつく。
だが今日は、横澤が声をかけるまで気付かなかったようだ。
高野への恋心を胸に秘める横澤としては、二重の意味で気に入らない。

「用があるなら、ここで言えよ。」
高野は横澤を見上げると、めんどくさそうに言った。
横澤が「ああ?」と威嚇するように唸ったが、高野は動じない。
あくまで立ち上がる気がない高野の態度が、腹立たしいことこの上なかった。
「じゃあ言うぞ。この企画書は何だ?」
そう言って、横澤は手に持っていた数枚の書類を高野の席にバサリと放った。

「羽鳥のは数字が1桁違う。木佐のは誤字が多すぎ。作品のタイトル間違うなんてありえねえ。」
自分の席でパソコンに向かっていた羽鳥と木佐が、驚き、顔を上げた。
「たまたま最初に見たのが俺だったから、部長が見る前に持ってきた。」
横澤はさらにそう言いながら、高野の表情をうかがう。
高野はじっと無表情で、横澤が持ってきた書類に目を通していた。
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