…したい10題

□傷つけたい
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アイツこそ吉川千春だ。
男は自分の前を通り過ぎていった青年をチラリと見た。
そして間違いないと確信する。
彼が見覚えがあるジャケットを着ていたからだ。
男はポケットに隠しているナイフの柄を握りなおした。
アイツをこのナイフで傷つけたい。
ただそれだけを思いつめていた。

吉川千春を狙うと決めて、その素性を調べて驚いた。
てっきり女だと思っていたが、男だと知れたのだ。
一応それは秘密になっているようだが、そのガードは甘かった。
アシスタントや編集者、作品をアニメ化やゲーム化するときのスタッフ等々。
実は男であることを知っている人間は、かなりの人数だ。
それだけの人間が知っていれば、秘密は漏れてしまうものだ。
そしてついにその住居を突き止めた男は、ずっとその前で張り込んでいた。

ここで問題が発生した。
吉川千春の顔写真だけは、ついに手に入れられなかったのだ。
編集者やらアシスタントやら人が多く出入りする場所で、吉川千春本人がわからない。
男の襲撃計画は、あと1歩のところで停滞していた。

だがようやく長い張り込みの努力は実を結んだ。
唯一目標を識別できる目印である薄いベージュのジャケット。
それを着た青年が出て来たのだ。
男は青年を尾行した。
青年はまったく警戒などしていない様子で歩いていく。
そしてコンビニへ入ろうと歩調を緩めた青年に向かって、男はナイフを振り上げて突進した。
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