キス5題

□おでこにチュウ
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そのとき額に唇が触れた。
それを間近で見てしまった吉野は、呆然とした。

吉川千春こと吉野千秋は、丸川書店の会議室にいた。
今日は新しい企画の打ち合わせに来たのだ。
吉野と向かい合って、高屋敷玲二が座っている。
彼は羽鳥の大学時代の友人で、ゲームクリエイターだ。
そして2人をここへ案内したのはエメラルド編集部の小野寺律だった。

高屋敷はゲーム界では有名な存在だ。
その彼が以前吉野の作品をゲーム化するとき、企画を担当した。
売れっ子作家吉野とゲーム界のヒットメーカーがコラボ。
その甲斐あって、ゲームはまずまずの売り上げ本数を叩き出した。

今回は吉野の漫画をゲーム化するのではない。
最初からゲームありきで作品化するという企画だ。
キャラクターやシナリオを吉野が作り、それを高屋敷がゲーム化する。
まずゲームソフトを売り出すのが先で、その後エメラルドに吉野の漫画を掲載する。
もちろんゲームと漫画では、シナリオを変えて作る。
ファンは同じ世界観で、2つの作品を楽しめるという趣向だった。

エメラルド側の担当者は、羽鳥芳雪だ。
だがせっかく吉野と高屋敷の初打ち合わせの今日、アクシデントが起きた。
例によってかの大作家、一之瀬絵梨佳のわがままで呼び出されてしまったのだ。
こういう場合は普通、編集長の高野政宗が相手をするところだ。
だがその高野も羽鳥と共に、一之瀬の仕事場に出向いている。
そこで急遽、この場を取り仕切ることになったのが律だった。
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