恋の歌10

□幸せってこういうことかな?
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「テメェ、何しやがる!」
威勢よく叫んだ声の主より先に、背後にいた男が銀色のトレイを振り下ろしていた。
グニャリと曲がったトレイと、その場に蹲る客。
騒ぎを聞きつけてホールに出て来た三橋は、何が起きたか判らずに呆然としている。
だが一部始終を見ていた阿部は、堪えきれずに笑い出した。

三橋が倒れてしまった翌日から、カフェは3日間ほど臨時休業した。
そして4日目には、いつも通りに営業を開始した。
阿部は何週間、下手をしたら月単位での休業も覚悟していた。
まず三橋の体調がよくなることが大事。
次に従業員を確保しなくては、また無理をして身体を壊すことになりかねない。

三橋の回復はすこぶる早かった。
阿部が三橋を徹底的に甘やかしたからだ。
三橋の気持ちにゆとりが戻ったのだろう。
何しろ例えば食事は、用意するだけでは飽き足らず。
1口ずつ「あーん」とバカップルよろしく食べさせる。
入浴も三橋が自力ですることを許さず、阿部が隅々まで洗った。
その行為がいかがわしく変わり、結局三橋が眠るまでその身体を離さない。
身体を拭いたり、着替えさせたり、とにかく阿部は三橋を構い倒した。
その結果、三橋はすぐに元気を取り戻したのだった。
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