恋の歌10

□恋に落ちた瞬間
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「恋に落ちた瞬間は、やっぱりあの時かなぁ?」
目の前の男はのろける気まんまんのようで、緩みきった頬を引き締める様子は微塵もない。
阿部は止めてくれとばかりに、これ見よがしに大きくため息をついた。
だが三橋は「あの時?」と興味津々の様子で身を乗り出していた。
阿部は「コーヒー、もう1杯淹れる」と言いながら、席を立った。
とてもじゃないが、話し続ける男の「のろけ」をこれ以上、聞いてられない。

大学を卒業した阿部と三橋は、東京でカフェを切り盛りしながら生計を立てている。
元々は学生時代に、この店で住み込みでアルバイトをしていた。
同じ男同士でありながら、恋人同士である2人は、そのまま今もここに住んでいる
一緒に住んで、一緒に働き、一緒に眠る。
世間的には籍を入れることもできないが、2人はもうほとんど夫婦のようなものだった。

カフェのオーナーは、現在アメリカに住んでいる。
阿部と三橋が大学の卒業するに際して、彼は本格的に店をやらないかと提案したのだ。
高校、大学とずっとバッテリーを組んでいた阿部と三橋。
卒業時には、そこそこの実績を残す有名選手だった。
プロ野球も含めて、進路についてはいろいろ悩んだ。
だが最終的には、カフェで働く話をありがたく受けた。
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