徒然散歩道

□Escape
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 付き合って一年といったらまだ付き合い始めに入ると思っていたし、倦怠期があるとは思えない。
 それなのに祐哉になかなか会えなくて、会いたいと思う気持ちは日に日に募るばかりだった。
 だけどそう思っているのは私だけで、祐哉は何とも思ってないと考えたら不安になる。


 いつも会いたいと思うのは私だけだとしたら。 そう思っているから喧嘩になるとしたら。


 もしそうだったら祐哉の気持ちが離れた、そう考えてもおかしくない。 だけどそんな事、思いたくなかったし信じたくもなかった。


「…… どうしたらいいんだろう」


 いつもは強気な私でも祐哉の事になると、途端に弱気になる。
 不安で心配でたまらなくて、胸が苦しくなる時もあった。


「だから、あの映画にしようって決めなかった? 」


 とふいに友達の声が聞こえ、我に返る。
 そういえば今度、一緒に映画を見に行くと約束していた事を思い出す。 校内を歩いていた私達は講義も終わり校舎から出て、楠木の横にあるベンチに座っていた。


「あ、ごめん。忘れてた。そうだったよね」


 そう苦笑いをしながら謝る。
 するとある映像が、まるでフラッシュバックのように思い出された。









「ごめん。明日、絶対に借りていた本を持って来るから」


 そう苦笑いをしながら祐哉が謝っていたのは、去年の十二月の半ば。
 風が冷たく手袋をしていても全然、手が温かくならないほど寒い日だった。


 映画になった原作を読んでみたいからと単行本を貸した二週間後、読んだ本を持ってくるのを忘れていた祐哉。
 返すのはいつでもいいと言ったのに祐哉は、その後どうしても本を返したいからと、大学に入る前に家に帰った日があった。
 だけど、鍵を忘れて母親が買い物から戻るのを待っていたら、風邪をひいて翌日は休んでしまった。そこまでしてくれたのに…… 。










「もしかして、他に見たい映画があったの? 」


 そう友達に聞かれ頭を左右に振る。
 考えていた事が違うだけに、戸惑いながら


「そうじゃないよ。小説の構想を考えてた」


 と言ってごまかした。彼女は友達だけど彼の話をしてこないから、私も祐哉の話はできない。
 あまり自分の事を話さないだけに、恋愛の話は聞いた事がなかった。


「そうだったんだ。あの映画、人気があるから絶対に見に行きたくて」


 と笑顔で話すとバイトだからと言って立ち上がる。
 そして手を振って歩き出した彼女に


「大丈夫。予定変更はないから」


 と返事をしてから彼女に手を振ると、家に帰る為にゆっくりと立ち上がったのだった。



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