徒然散歩道

□Escape
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 いつも大学の講義が終わると、一週間に二回は倉庫を改造したような“街路樹”に寄って珈琲を飲んだり、サンドイッチやベーグルを食べる。
 それは私にとって息抜きが出来る場所で、人間観察も出来るからだった。


 来るのは一人の時が多いけど、先に友達が来ていたり一緒に寄る事もある。
 そんな時は他愛のない話をしたり、お互いに彼氏の話をして時間が過ぎていく。
 その話も時には参考になったりヒントをもらう事もあるから、気が抜けない。


 というのも、私は大学の文学部で小説を書く勉強をしているからである。
 サークルも文学研究会に入り後輩や先輩の書く小説を楽しみにしていて、作家の事を調べたり研究するのも勉強になっていた。
 私は小学生の頃から作家になりたくてこの大学に入り、夢を叶えたくてこの環境を楽しみながら勉強している。


(だけど、言い過ぎたかな)


 ベーグルを食べ終わり珈琲を飲んでいると気持ちが落ち着いて、そう思えてきた。
 自分だって小説の構想を思いついて夢中でパソコンのキーボードを打っている時、祐哉に会いたいとは考えた事はない。

 だけど時間がある時や会いたいと思うと、その気持ちを止められないなんてわがままだと思う。 いくら“女性の気持ちは変わりやすい”といっても、許せる事とそうでない事があるだろう。


(でも、何の連絡もしないで二週間も会わないなんて、やっぱり許せない)


 言い過ぎたかなとは思うけど、だからって簡単に許せるほど大人になっていない私は、そう思いながら伝票を持った。
 店内に流れるR&Bの曲は決して邪魔になる事はなく、居心地がいい。 だけど帰って講義のノートをまとめたり、小説の構想をしたりとやりたい事があるだけに、いつまでも居る訳にいかなかった。


 大学からマンションまでは地下鉄で十分。
 入学する時に大学から近いという理由で、このマンションに決めた。
 ほとんどを親に頼っているけど、小遣いだけはアルバイトをして稼いでいる。


「まずはノートをまとめなきゃ」


 ワンルームの部屋に入り、やる気を起こさせるようにそう呟く。
 書きたい小説はあったけど楽しみは後に残しておこうと考えてから、肩掛けのバックからノートを取り出した。

  *  *  *

 それから祐哉に会う事ができたのは、一週間後。
 祐哉は謝りもせず校内で見かけた私に、目配せをしただけだった。
 私も同じく目配せをしたけど、どうしても納得できない。
 謝る事なくそれまで何の連絡もしない祐哉に対して、何か一言でも言いたかったけどお互い友達と一緒だった為に諦めるしかなかった。



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