徒然散歩道
□Escape
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「 最低! 」
そう叫ぶと呆然とする彼、祐哉にくるりと背中を向けて歩き出す。
大学の校門の手前には樹齢百年の楠木があり、その横には木製のベンチがあった。
そのベンチに座り二週間振りに会ったのは、ちょうど午後の十二時。
会いたくても会えなくてずっと我慢していた私、明日香は祐哉の話を聞いて信じられない思いでいっぱいだった。
付き合って一年が過ぎると、彼女に会うより他の事を優先するのだろうか。
私は今でも祐哉に会いたいし一緒にいたいと思っているのに、祐哉はそうじゃないと考えたら途端に怖くなる。
だけどそんな事はない、きっといつものように眉を下げて謝ってくると信じていた。
今まで彼氏ができても三ヶ月しか続かなかったのに、一年も付き合えた事を考えたら仲直りをするのは火を付けるより簡単だ。
(だけど…… )
大学の二年になってから将来の事を決めなければならない時期だからこそ、会えないとしたら。 祐哉は警察官になりたいという夢を現実にする為、父親と同じ大学に入学したと聞いた。
父親と同じ道を進むのは嫌だと思った事もあったけど、それでも父親といろいろ話していくうちに父親の生き方が格好よく思えたという。
祐哉はちゃんとした将来を決めて、それに向かって努力している。
それは一年前から変わる事はなかった。
自分の夢に真っすぐに向かっている祐哉が格好よくて、そして男らしいと感じた。
そんな祐哉の事を好きになって告白して、付き合う事ができた。
それだけで満足していたはずだった。
でもあんな理由を聞かされたら、私でなくても頭にくるはずだと思う。
(頭を冷やした方がいいんじゃない? )
レンガ造りの大学から出て地下鉄の駅に向かって歩きながら出した答えは、間違っていないと思う。
いくら付き合っているからといっても、謝れば済むなんて。
そう思いながら空を見上げると海のような色で、そこに真っ白な飛行機雲が見えた。
広大な空を見ると自分の悩みは、なんて小さいんだろうと思えてくる。 だから面白くない事や悩みがある時は、空を見るようになった。
(あ、元気がでた)
そう思った途端にお腹が空いていた事を思い出し、暖かく柔らかい風を感じながら珈琲専門店へと歩いて行く。
お腹が空いていると、ろくな事を考えないしそれに苛々するばかりだと思いながら。
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