STORY

□障害
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その数日後、久しぶりにルビーの部屋に上がりこんだ。
部屋は前と同じように綺麗にされていたが、足りないものがそこにはあった。

「やぁ、わざわざ来てくれてありがとう」
「わざわざというほどの距離やないやろ。お隣さんやし」
「そうだね。でもキミといることが、すごく幸せなんだ。
 で、今日はキミに伝えたいことがあるんだ。
 ボクは左目の視力を失った。
でもまぁ、もともとめがねなしでは生きられないほど悪かったから、今までとあまり変わらないと思う。」

だから、ね?安心して。と笑う。
あたしは何もいえずに紅い瞳を見つめた。

「けど、これからはコンテストを引退して、ポケモンたちと静かに暮らそうと思う。」

---ルビーの部屋になかったのは、いつも彼が大事にしているコンテストグッズだったのだ。

「コンテストはもうできないけどね、キミとともに生きることはできると思うんだ。
 くさいけど、…もしキミが嫌じゃなかったら……
 ボクとともに生きてくれないかな…?」

あたしは思わず大粒の涙を流して彼に抱きついた。答えはイエス。

そしてルビーは本当にコンテストを辞めた。
あたしが彼の目になることもできたけど、彼がそれを拒んだ。
そして今、私と彼は結婚し、地図にも載らないほど小さな村で静かに暮らしている。

し あ わ せ---なずなのに。
ルビーはいつも悲しそうな目をしている。

「…ルビー」
「?なに、サファイア?」
「---本当にあたしでよかったと?
 あんたは、あたしと一緒におって幸せと?」
「どうしたの、急に。もちろん幸せに決まってるじゃないか」

ルビーはあたしを抱きしめて、耳元でささやいた。

「---っ、真面目に、答えて…」

あたしの瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。
彼を幸せにできているか、彼が後悔していないか、そんな不安があたしの心にあふれる。

「……真面目に答えているよ。僕はキミといれてとても、とても幸せだ。
 たしかに、視力を失ってしまってはコンテストを続けることができない。
 悔しい気持ちがあるのは今でも同じさ。
 だけど…。
 ボクの夢とかを失うより、かけがえのない人を失うほうが怖いんだ。
 ボクにとって、キミがそうなんだよ、サファイア。」

彼はあたしに向かって優しく微笑んだ。
あたたかいものがあたしの心を溶かしていく。

「あー、でもサファイアのエプロン姿が見れないのは残念だな…」

くすっ…あたしは真剣に…

「サーファーイーアー!?さてはキミ、笑っているな!?」
「---すまんち。」

彼の手をとってぎゅっと握る。

「---ルビー。
 あんたがあたしの旦那でよかったとよ。
 あたしも、あんたがいちばん大切やけん。」
「---うん。」
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