企画小説

□慈宍
1ページ/2ページ




好奇心。そういう事にしておきたかった。

大人がよく言う、『若気の至り』とかいうやつで済まされたって構わない。

―――――後輩に横取りされた幼馴染みを、なんとしてでも取り返したかった。

















「…ロー、おいジロー」


閉じていた瞼をゆっくり開けると、目の前に広がる想い人の顔。

夢だと信じて再び二度寝を試みてみるも、頬をがっつりと摘ままれてしまい情けない奇声を上げさせられた。


「い…痛いC…」

「感謝しろ、跡部なら今頃張り手もんだぜ」


お気に入りの帽子をロッカーにしまい、そこから制服を乱暴に引っ張り出す宍戸。

ずっとぼんやりしていた意識が、今ので漸く覚醒できた。


「今何時!?」

「…7時過ぎ。もちろん夜のな」

「…もしかして俺、寝過ごした?」

「はい正解」


偉いぞーなんて言いながら、我が幼馴染みは着々とユニフォームを脱いでいく。

それをぼんやりと眺めながら、休んでいた脳をフル回転させてみた。

いつもとどこかが違う、どこか、俺にとって重要などこかが…――――。




「みんなは…鳳は?」




居ないのだ。

いつも宍戸の後ろにくっついているはずの後輩が、今日に限って姿を見せない。

この時間だと自主練終わりのはずだから、他のやつらが居ない理由はなんとなくだが見つかっていた。

しかし、後輩が、あいつが、
邪魔者がいない。


「ねぇ宍戸、」

「何だ?あいつらなら先に帰らせたけど」

「そっか。…じゃあさ、これから俺に付き合ってくれない?」

「夕飯に間に合いそうならな。何、どっか行きてぇの?」

「んー…やってみたいことがあんだよね」

「は、?」


















「痛いかもしんねーけど、我慢して」













――――チャンスじゃねぇかと、誰かが静かに笑った気がした。











.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ