企画小説
□氷帝オール
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「なぁ日吉くん」
「なんですか向日さん」
「ここって東京だよな」
「そうですね」
「その前に日本だよな」
「そうですね」
「じゃあ、こんな馬鹿でかいプールなんか作っちゃいけないはずだよな」
「…そうですね」
見渡す限りの水面に唖然とするのは、俺と宍戸と日吉の常識人トリオ。
他のボンボン共は、さっさと浮き輪やらボートやらの準備を始めていた。
さっきからニヤニヤしているあいつの泣きボクロを引きちぎりたい衝動に駆られながら、口と目を半開いて立ち尽くす俺達。
―――これが、これから始まる我らが氷帝学園の夏休みなのだ。
「プールじゃねーよなこれ…もう海だよなこれ…」
「広いですねー、流石部長です」
ほとんどまばたきをせずにプールを眺めている宍戸と、そんなこいつをまばたきをせずに眺めている鳳。
宍戸には悪いが、鳳の不気味さに当てられた俺は二人から二・三歩横にずれた。
どこか遠い目をしている樺地から荷物を受け取り、定位置となりつつある日吉の隣へと静かに戻る。
プールには目もくれずせっせと準備をしている侑士の眼鏡を曇らせてやりたかった。
―――お察しの通り、俺達は今跡部が無駄に作った馬鹿でかいプールに遊びに来ている。
その大きさは本当に無駄としか言い様がなく、うちの学校の生徒たちが全員入れるんじゃないかってほどの広さなのだ。
正直、どう遊んでいいのかが分からない。
「日吉、宍戸。どうするよ」
「どうするったって…適当に遊んでさっさと帰ろうぜ」
「同感です。広すぎて逆に居心地が悪い」
「俺お前らのこと愛してるわ」
常識人たちと話していると、酷く安心できるのは何故だろう。
一時の幸せを味わっていると、後ろから今最も聞きたくない声が聞こえてきた。
「よし、ではさっそく二チームに別れて水中リレーでもやるか!」
「頭冷やせこの無駄成金」
ジャンプ台に登って指パッチンを決めた跡部をそのまま蹴り落とし、ジローからぶん取った浮き輪を投げてやった。
まだ洋服を着たままだったが、OVAで経験済みらしいのでそれ以上の手助けはしないことにする。
大の字で浮き上がってきた跡部を尻目に、俺は日吉と宍戸を引き連れて恐る恐る水面に浸かってみた。
どうやら、水だけは普通のプールと同じらしい。
「ちょっくら泳ぐか?」
「向こう側見えねーから若干怖ぇんだけど」
「鮫とか居そうですもんね、この雰囲気だと」
「よし、水かけ合って適当に濡れてさっさと帰ろう」
頷く二人を確認したあと、真横に浮いている跡部をスルーして三人で馬鹿みたいに水をかけ合った。
ガキみたいかもしれないけど、何故かものすごく楽しくて。
「げほっ、…やりやがったな若!」
「俺じゃありません向日さんです」
「おう濡れ衣!プール内だけに!」
「上手くないです」
「疑わしきは罰せずだ!」
「くそー頭良さげなこと言いやがってぇ!」
「げーこーくーじょーだぜー」
セレブ組をほったらかして、俺達は侑士が泣き出すまで水と戯れていた。
「宍戸さん…あんなに楽しそうに…おっといっけね、勃っちゃいました」
「爽やかに最低やな自分」
「忍足先輩こそその下半身どうにかしてください」
「男は上と下が別の生きもんやねん」
「トイレ行ってきます」
「聞けや人の話」
〜end〜
色々とごめんなさい。