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□Think like family _10.03.19 UP
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『……でな、その時のエリシアちゃんがとびっきり可愛くて……おっと、もうこんな時間か。非常に残念だが、俺は仕事に戻んなくちゃなんねえ。』

「はぁ…」

『てことで、中尉によろしく言っといてくれな。じゃ!』

ガチャンッ…

「…はあぁ……つーか、マジありえねぇ!! 一時間は無駄話に付き合わされたぞ…」

電話の受話器を置き、深い溜め息を吐く。…あ、どーも。ハボック少尉っス。
見ての通り 俺は今、ヒューズ中佐の長電話(主に惚気話)に付き合わされたところだ。

とりあえずこれから、サボった大佐を捜しに行った中尉を捜して、忘れんうちに中佐のお礼の伝言を伝えないと。

ん?何のお礼かって?それは5日前のホワイトデーまで話が遡るんだが…。
まあ、東方司令部の近況ってことでお伝えしよう。

─5日前─

3月14日、ホワイトデー。
普通、一大イベントというと、クリスマスとか新年とかバレンタインデーのこと等をいい、ホワイトデーはあまりポピュラーに広まっているわけではないのだが、俺らの勤務するここ、東方司令部司令室に限っては多忙に拍車をかける一大イベントの一つであった。

何故かというと、司令室メンバーの者は皆、東方司令部で2番目に強い権力を持つ司令官─我らが上司、国軍大佐 ロイ・マスタングによる巻き添えを食らうからだ。

「大佐ぁ!これで市民一般人(女性のみ)及び、中央司令部の女性士官へのお返しを全部送り終わりました〜。」

「うむ。ご苦労だったなハボック」

司令室に戻ってみると、多忙に拍車をかけている張本人であるはずの上司が 呑気にも新聞を広げてコーヒーを啜っていた。

「うむ。…じゃないっスよ!なに、部下が働いてんのにコーヒーなんか啜ってくつろいでんスか!! まったく、中尉がいないとすぐこれなんだから…」

今日はホークアイ中尉は午後出勤。彼女が来るまではあと1時間程あり、いつものように急かす相手がいないためか(自分含む他の部下達も仕事しろとは言っているのだが、彼女ほどの効果はない)、目の前の上司は完全にサボり状態であった。

「ああ…いや、すまない。こう無茶苦茶に忙しすぎると、ついやる気が失せてしまってな…他の皆は?」

普段からやる気の欠片もないじゃないスか…という言葉を飲み込んで、ハボックは自分の机に寄りかかった。

「東方司令部の女性士官達に、でっかい段ボール箱持ってお返しを配っているところっスよ。てか、そんぐらい大佐本人が配ってくださいよ!仕事が滞って中尉に叱られるっス!」

「何を言う。私が各支部にいちいち配ってたら、女性士官達と談笑せざるを得ないだろう。そうなれば、午後までに終わらせなくてはいけない仕事が片付かないのは必至!結果、私が中尉に怒られるではないか!」

「談笑しなけりゃいいでしょうに…」

正直 毎年毎年、大佐の代わりに 年々増えていく(今年はまたも記録更新で、その数 358個!)贈り物のお返しを配るのは疲れるし面倒くさい。先日、彼女に振られたばかりの自分としては精神的ダメージも大きい。
バレンタインの日は何とか逃げ仰せるのに成功したが、今回はそう上手くはいかず、全員捕まって…いや、手伝わされてしまった。

はぁ…と重い溜め息を吐くと、何を勘違いしたか「今から仕事をしようとしていたところだったんだ」とむっとした声が反ってきた。

「こんちはー!中尉いるー?」

バーンとドアが勢いよく開き、軍部には相応しくない、元気な少年の声が響いた。

「鋼の!」

「大佐〜。ブレダ少尉、ファルマン准尉、只今戻りましたー。ちょうど、さっき受付で鋼の大将たちと会ったとこなんすよ。」

「中尉は…まだ出勤してないようですね」

ブレダとファルマンの二人は顔の辺りまで空の段ボール箱を抱えて戻ってきた。

「んだよ、中尉いねーのか!あーちくしょう、大佐と無駄に顔あわせるくらいなら やっぱり図書館で時間つぶしときゃ良かったなー」

鋼の大将、と呼ばれたこの少年は(ちなみに、"大将"ってのは地位の意味じゃなくて、ガキ大将とかに使う方の大将だ)若干12歳で国家錬金術師になった鋼の錬金術師、エドワード・エルリックである。 ぶつぶつ文句を言いながらそのままズカズカと司令室に入り、どかっと来客用ソファーに座った。

「兄さん、態度が悪いよ!…あ、こんにちはー 少尉、大佐」

「ウッス!大将、アル」

エドの後ろから強面な鎧姿とは裏腹に礼儀正しく入ってきたのは、エドワードの実弟、アルフォンス・エルリックだ。

「や、アルフォンス。…それはそうと鋼の、今日は定期報告も査定も無いはずだが…何の用だね?言っておくが茶は出んぞ。見ての通り、今日はいつも以上に仕事が忙しいのでね」

「へ〜え、仕事、ね。見たところ、広がった新聞とコーヒーくらいしか見えねーけど?」

エドがいいところを突く。
「そーなんだよ、中尉がまだ来てないからって大佐、
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