孫小説
□紅月 《夜×昼》
裏 初ぬら孫
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夜の帳が落ちれば妖の君の時間が訪れる。
ひとつの体にふたつの心。
唯一、お互いが会えるのは精神の奥底にある夢現の夢幻世界。
ふたつの心が重なる場所。
今夜の月は満月。
そしてまた珍しく紅い月。
妖たちの力がいつもより強まる夜。
浮世絵町の妖怪たちは紅い月に血が騒ぐのかいつもより血の気が多くなり喧嘩が多発する。
鴉たちが夜回りでバタバタと飛び大きな騒ぎになる前に抑えに回る。
ぬら組の面々も外に出ていっている者が多い。
満月の晩は、いつも妖の君は血が滾るのか、外に出ていき夜明けまで出掛けるのがほとんど。
そして、僕は君の中で眠りにつく。
今夜も早々に体を明け渡そうと思い、意識を降下させ再び目を開ければ僕の回りの景色がかわる。
小振りな屋敷と森のような広い庭、すぐそばには一本の立派な枝垂れ桜の木。
今は春ではないから花はつけてはおらず、緑の葉だけがサワサワと揺れている。
そして、空には輝く紅い月。
外界と同じ天気、季節になっている。
屋敷の側の枝垂れ桜の木に君がまだいた。
木の幹に寄りかかり、太い枝に腰を落ち着かせてる。
「よう…。」
僕に気づいて、下にいる僕に短いあいさつを降らせた。
どうやらまだ外に行く気はないらしい。
『こんばんは。今日は満月なのにどこにも遊びにいかないの?』
珍しく長居をしている君に尋ねる。
いつも入れ替わる時にこの空間で一言、二言、言葉をかわすがすぐに出ていってしまう君。
特に月が満ちていればなおのこと…。
今夜はめずらしい。