novelle

□ミルキーウェイの夜に
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ミルキーウェイ夜に

「あの日交えた約束あなたは今も覚えていますか? 一昨年、去年と会えていないけれど今年こそは、明日こそは会えるのかな……」

そう思いながら彼女は昨夜、寝床についた。

彼女は夢を見た。

高い高い満天の星空にたくさんのかささぎが橋を造り、その上を着飾った女性が渡ってくる夢。

向こう岸には一人、男性がいて、渡っている姿を微笑ましく見つめていた。

その夢には音も何もなかったけど、二人の顔はぼやけて見えなかったけれども、とても幸せだと感じさせるものだった。

とてもとても、短い夢だったけれど、とてもとても長い夢。

ふと目を開けると、真っ白い光に突如彼女は包まれた。

まぶしくて反射的に目をきつく閉じて再び開けてみるとそこはパステルカラーに包まれた空間だった。

その空間に彼女は浮いている。

彼女以外にも人がひとり。

その人物は彼女のよく知る、会いたいと何度も願った愛しい人の姿が。

だが、彼はそんなに遠くないのに、彼女が手を伸ばしても掴むことはできなかった。


「――! ――!」


彼の名を呼んでも声に出せない。

言葉だけが虚空に消えた。

しかし、彼は彼女に呼ばれているのがわかったのか口を開けた。

彼女の必死そうな顔を見て苦笑を浮かべながら。

「大丈夫、ここにいる。……ごめんな、この頃会えなくて。明日はお前の誕生日なのに、いつもメールも電話もしなくて。明日は、絶対会えるから。会いに行くから――」

いつもの駅の……。

彼はそう続けた。

声は懐かしくあの日から全く変わってなどいなかった。

声は耳から聞こえるのではなく、頭に直接響いてくるようだった。

頷きたい。

彼の言葉に言葉で頷きたい。

なのに、心と体は反比例するばかりで、声が出せない。

そんな夢の世界に怒りを感じた。

そうこうしているうちに、もっと話したいと思っているうちに、この世界は意地悪で。

パステルカラーに包まれたその空間はあっという間に消えていった。


「…………」


眩しい光が顔に差すのがわかり、光の中で目を覚ます。

また、これも夢なのだろうか……。

目に入ってきたのは、いつもと変わらない自分の部屋。

そうとなると、ここはベットだ。

近くに置いてある時計に目を向けると短針は八の字を差していた。

壁に掛かっているカレンダーには、昨日と思われる数字の上ににバツの字が、その翌日には数字が丸で囲まれていた。

場面が変わる気配もない。

彼女は夢から目覚めたのだ。

あれほど祈った明日が、今日になったのだ。

ゆっくりとベットから起き上がると、先程見ていた夢が鮮明にフラッシュバックされた。


「――っ!」


“明日は絶対会えるから。会いに行くから”

夢の中で彼が言っていたことが確かだなんて言い切れない。

だけど、信じてみたいと思った。

これまでどれだけ信じてもその期待はあっけなく裏切られてきたが、そのときのつけが今日に回って来るかもしれない。

“いつもの駅の三番ホーム、朝八時四十七分の急行”

彼はそう言っていた。

時計の長針はまだ位置のところを通り過ぎてしまったばかり。

大体の時間配分を考え、いける、と思った。

彼女は、リビングのテーブルの上に乗っていた朝ご飯にさえ、目を向けずお気に入りのワンピースを着てミュールへ足を運んだ。

部屋が泥棒に入られたかのように汚いことなど気にせず、玄関を飛び出した。

あいにく、自転車は今、母に貸し出し中なので駅まで走らなければいけない。

足をくじくことも恐れず、彼女は駅に続く道を走る。

現在八時三十分。

今日は、これでもかというほどの晴天で雲ひとつない青空から太陽がぎらぎらと照りつけていた。

駅へと着くと、三番ホームへと向ける改札に向かう。

何回も来ているので、慣れたものだ。

その改札の前で彼があの階段から姿を見せるのを待った。

八時四十四分。

八時四十五分。

八時四十六分。

……八時四十七分。


「三番線に急行……行きが七秒で到着いたします。危険ですので――」


来た。

きっちり七秒後に電車は到着し、ぞろぞろと彼女のいる改札へと人が額の汗をぬぐいながら降りてくる。

その人ごみの中に彼を見つけた。

嬉しくてつい、大きく手を振って彼女は呼ぶ。


「よかったっ! 会えた!! 来てくれた!!」


改札から出てきた彼に走り寄って手を伸ばして、捕まえた。

周りの目を気にせず抱きつく彼女に彼は赤面する。

我に返った彼女は、あわてて彼を放す。


「あっ! ねえ、知ってる? 今日は七夕なんだよ?」


少し馬鹿にしたような、質問に返す言葉が出なかった。


「それで思ったんだけど、わたしたちって、織姫と彦星みたいじゃない?」


一年に一度しか会えない二人。

雨が降ったらまた来年。

カササギが意地悪してもまた来年。

しかし、これでもいいと思う。

会えない間は寂しいけれど、会えたときはとても嬉しいから。

たった一年に一度しか会えなくても、会ったその日を最高の一日にすればいい。

そのほうが毎日会うよりずっといい。


「あ、でもあの二人よりは遠くないよね。それだけがわたしたちが勝てるところかな?」



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