novelle
□果てしない愛
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果てしない愛
いつからだろう。
彼がこんなになってしまったのは。
「っ! 隼人! 落ち着いてよ! ちょ、止めて!」
狂ってしまった彼は、彼女に手を上げようとする。
しかし、彼は彼女の言葉には耳を貸そうともしない。
二人が付き合いだしておよそ二年半。
その二年半の中で二人の歯車は噛み合わなくなってしまった。
はじめは些細な出来事だったのだろう。
けれども、そのかみ合わせは日に日に悪くなっていき、油を塗っても無意味で、彼女の身体にあざを作るほどまで合わなくってしまったのだ。
「お前が悪いんだろ! お前がっ! 俺の言う事を聞かないから!」
この状態がもう一年も続いている。
初めてこんな彼を見たとき、もう駄目だと思った。
当時、彼女が十七で彼が十九だた。
それなりにお互いバイトもしていたし、親とも仲が悪かったので同居しても大丈夫だと思ったから彼女は彼を家から連れ出して一緒に住み始めた。
少し高いマンションだが、防音設備は万全にした。
彼のことがバレて居を転々とするよりは高くてもそこにいるほうがいいだろう。
だから、今日まで隣近所にバレることはなく、普通の日常を送ってこられたのである。
親も来ないので安心だ。
そして彼も、彼女の前以外でこんな顔を見せるはずがない。
周りにはいつも親切で気が利く温厚な男の子、通っている。
だれが、そんな温厚な人が彼女にいくつもの痣を作っていると予想できるだろう。
また、幸い今まで一度も顔に痣を作られた覚えはない。
一応気にはしてくれているのだろうか。
彼の良心がまだ残っていることに安堵と喜びを感じ、また逆にその良心がいつ彼の身から消し去るか……と日々不安が彼女を襲う。
「ごめん、ごめんねっ、隼人っ……!」
こうなってしまった原因もわからないまま彼女は彼が狂ってしまったことに自分を責め、涙を流す。
もしかすると、彼女を愛しすぎてそれを通り越し狂ってしまった彼より、
彼をこんなに狂わせてしまった事を責める彼女の方が狂っているのかもしれない。
彼もまた彼女を愛しすぎ、彼女もまた彼を愛しすぎているのだ。
こんなになってしまった彼を。
こんなになってしまった彼女が。
そうしてまた、二人の歯車は狂っていく。
とわ
もう永久に戻ることは……できない。
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