novelle

□会いたいから
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会いたいから




晴天。雲ひとつない青空の下、僕は歩く。

周りには切り開けた草原のような野原。

風が吹くとざわざわと草が靡く。



君に会いたいから。



遠い異国の地へ旅立った君に会いたいから。

危険を冒して大きな傷を受けたとしても僕の足が止まることはない。

むしろ、もっと進む。


……君はまだ僕の事を想ってくれているのだろうか。


例え想っていないとしても僕は君に会いたい。

こんな自分勝手な都合を押し付け迷惑にならないのか……。

今まで、何度その不安を抱いたことだろう。

その度に、いいんだ、これでいいんだ、と言い聞かせた。

貧しい僕には馬車や汽車に乗るお金もない。

だから数ヶ月前、食料やありったけのお金を鞄に詰め飛び出した。

それは、ずっとしていた文通が途絶え、来なくなった時と被る。






「どうして……」



どうしてあのとき君が行ってしまうときに僕はこの手で君を引き止めなかったのだろう。

君が嫌がるのであれば何故僕はあの時着いていかなかったのか。

今更ながらの公開と不安と共に押し寄せる自分への責め。

心には後悔という石ころがごろごろと転がっている。

足を止め、上を仰ぐと雲もない空に顔を出す暑いほどの太陽。

心の中とは正反対で鬱陶しくもなる。

すぐに顔を逸らし前を向く。

そしてまた僕の足は踏ん張りながら明後日の方向へ進む。

その勇気は果たしてどこから湧くのだろう。

雨でも雷でも嵐でも僕の足は前に進むか。

進むであろう。

これまでそれでも、進んできたのだ。

進まなければ、挫けてこれから先何もできなくなりそうだから。

また、その後襲ってくる恐怖に脅えているのかもしれない。

しかし、前に進むのには何ら変わりはないはずだ。




「ただ……会い……た、い」



視界が揺らぎばたり、と音を立てて倒れる。

瞳には青く澄んだ空しか見えない。


君は今この澄んだ空を見ているかな……?


ゆっくりと僕は目を閉じていく。

眠りに落ちる僕の姿は深い眠りにつくかのよう。

この頃あまり食べていなかったし、眠ってもいなかったと思う。

それぐらい僕は必死だったらしい。

少しぐらい休んでも大丈夫――。










「どうしたの?」



一人の少女が野原の真ん中に寝そべっている少年に駆け寄り、見下ろす。

しかし、少女は少年の顔を見たとたんはっ、と息を呑んだ。

そして、身を翻し来た所へ戻っていく。

暫くすると、少女は父親と思われる優しい面立ちの男を連れて戻ってきた。

少女は小さな手で父親の大きな手を取り、精一杯走る。





「お父さん! ほら、これ――だよ!!」



やっとの思いで少年の所へ父親を連れて行くと指差し説明する。

父親も少女と同じく目を丸くし、娘の言う事を信じた。




「寝ているだけだ。大丈夫だよ、ほら、家に運ぼうか」



声をかけると少女は少年の鞄を持ち、父親が少年を抱える。

その少女が少年が会いたがっていた人だと気付くのは目が覚めてからだ。

起きたとき少年はどんな反応をするだろうか。

まさか、自分がもうとっくに目的の地へ着いていたとは思いもしないだろう。

そして、あそこで倒れ、寝たことに喜びを感じることだろう。

少女が通りかかったのに感謝することだろう。

少年の時間がまた回り始めた一瞬だった。






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