novelle

□"もの"
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"もの"



「おい、俺にもひとつくれよ」



14、5歳だろうか。非常に大人びた顔立ちの少女の隣で
人には見えるはずの無いものが駄々を捏ねる。

後で、と顔立ちにとてもあった声色で返事をする少女は
いかにもそれが見えているようだった。

いや、明らかに見えているのだろう。

その世にも恐ろしい目を逸らしたくなるような容姿のものを。



「今挙げたらここで食べるでしょ!?」



誰にも聞こえない小さな声を少し荒上げながら少女は付け足す。

そしてあろうことか少女はその"もの"に恐れも危機感も抱いていない。



「ちぇ、ケチ」



その"もの"はまた駄々を捏ねはじめ、その声が少女の耳に響く。

だが、それを少女は徹底に無視していた。

ここはリビング。

そして、少女の周りには父親や母親などの家族。

せっせと母親が作っただろう御節や餅を口に運んでいる。

そして今、少女がその"もの"に御節などを与えてしまうと――その先ははっきりと目に見えていた。


"もの"が少女の前に現れて、少女がそれを見え始めて早半年。

それは、何の音沙汰も無くやってきた。

見え始めたときは、それは普通に驚いたもので、夢だと疑ったこともあったものだ。

この頃やっと慣れてきたところ。

少女の隣に今いる"もの"の名は――。

チン!、とトースターの音がして少女は席を立つ。

"もの"がくれと言うのを予めわかっており、餅を焼いていたのだ。

こんがりと焼き色のついた餅をさらに載せ席に戻ることなく、ご馳走様と一言告げる。

そのまま、階段を上り自分の部屋へと入るともう"もの"は目を輝かせて待っていた。


……一応言っておいた方がいいだろう。


餅を"もの"に渡すと少女は深々と頭を下げた。



「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」



頭を上げると、何か考え込んでいる"もの"の姿が目に入る。

しかし、"もの"とは裏腹に少女は晴れ晴れとした笑顔を見せていたのであった――。


これからずっと先、付き合っていくのだろうと思いはしていた……。


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