頼れる姉貴は副船長!! U

□第55話
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「………、は、あ」



疲れた、と一言零して倒れ込む。昔の事を思い出すことになるわ、怪我しまくるわ、血は足りないわ、そんな状態で暴力に励むことになるわ…もう散々だ。満身創痍だ。疲労困憊だ。あまりにもイラついたために足元のティーチを蹴る。テメェのせいだぞこの野郎。

ここからシャボンディ諸島までどのくらいだろうか。海王類達に運んでもらえれば…と思ったが彼らを呼ぶための笛がない。今の俺は『阿修羅』しか持ってないし、能力を使ってシャボンディ諸島まで行けるほどの体力も残ってない。



「(どうしろってんだか……)」



…仕方ない、今のうちに感覚の確認でもしとくか。痛みは、もう全身にある。痛覚は完全に戻ってきたな。
掌をぐっと握りこんでみる。前ほどにぼやけた感覚ではなくなってるようで、はっきりと握りこんだ感覚が伝わり、掌にはじくじくとした痛みが走る。

傷は、1つも治る気配がない。



「……はは、」



やっと人間になれたのか。
そう思ったと同時に視界がぼんやりと霞んできた。あれだけ血を流したんだ。きっと、化け物であった時でもやばかった。



「…折角、人間になれ…た、のにな、ぁ…」



出てきた言葉は酷く掠れていた。おいおい、まるでゼキのような喋り方じゃねぇか。あの喋り方は感染するのかよ。現実逃避するように馬鹿な事を考える。どうしたってこのままじゃ俺は多量出血で死んじまう。

自嘲染みた笑いが止まらない。やっと、やっと皆と同じ土俵に立てる時が来たと思ったのに。もう終わりなのか。誰にも会えないまま、もう終わってしまうのか。

せめて、



「皆に、ただいま……て……言い…たかっ…」



俺の意識はここで途切れてしまった。




≡≡≡≡≡≡




「おい!どういうことだ!?」



真っ先に声を上げたのはエース。立ち上がってモニターをバンバンと叩くが何も変化は起きない。



「モニターが壊れたのか?」


「それにしちゃあ、あまりにも突然だったが…」



何が起きたのかと思うだろうが、俺も正直よく分からない。映像が突然途切れたのだ。ティーチが倒れ、キイチが倒れた直後、ぶつりという音を立ててモニターに映っていた映像が途切れてしまった。



「…ただモニターが壊れただけというならいいんだがな」



静かに声を漏らしたのは、最初から落ち着いて椅子に座っていたジョズ。その言葉に、エースがどういうことだと首を傾げるが、俺ははっとしてジョズを見る。



「誰かに、電伝虫を壊された可能性もあるっていうことかい」


「…あぁ」


「ティーチやキイチが壊したって場合は…」


「それはない」


エースの声を遮ったのはイゾウ。眉間に皺をよせ、苦い顔をしてモニターを見つめている。



「ティーチもキイチもあんだけ傷を負って倒れてる状況で、離れた場所にある電伝虫を壊せると思うか?」


「……じゃあ、」


「今、あそこにはあの二人以外の第三者がいるかもしれねェってことだ」



もしそれが海軍だったら。もしそれがティーチの仲間だったら。もしそれが、弱ったキイチを狙ってやってきた輩だったら。

悪い考えが全員の頭を過ぎった。しかし、ここから距離のあるマリージョアまですぐに向かうことが出来ない。もし俺らが今から向かったとして、生きてるキイチに合える確証はない。



「…オヤジ」


「……」



指示を仰ぐためにオヤジを見れば、イゾウと同じように苦虫を噛み潰したような顔で腕を組んでいた。他の奴らも、俺の声に反応したのかオヤジを見つめていた。



「オヤジ…」


「…今から向かったって、絶対にキイチと会えるわけじゃねぇ」



それは全員が考えた事だ。オヤジの言った事実に、誰もがぐっと息を飲み込んだ。



「じゃあ…じゃあ、キイチを見捨てるってのか…!?」



エースがオヤジを睨みつける。今にも飛びかかりそうなエースを隣にいたラクヨウとハルタが押さえる。しかし、エースの言葉など聞かなかったかのようにオヤジは言葉を続けた。



「だが、キイチは俺の娘だ」


「「「!」」」


「見捨てられるはずがねェ…!」



がたりと大きな音をたてて椅子から立ち上がるオヤジ。俺らもそれに続いて立ち上がる。全員が、オヤジの次に続く言葉を待っていた。



「お前等、広場にいる奴らをさっさと呼んでこい!キイチのところへ向かうぞ!!」


「「「「おう!」」」」



早く、早くキイチに会いたい。早くキイチに会って、早くキイチを抱きしめて、早くキイチに。



「(おかえり、って言わねェと)」



だから、早く。














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