頼れる姉貴は副船長!! U

□第52話
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「キイチ……!」



画面に映るキイチに思わず声が漏れる。あそこまで怒ったキイチを見るのはいつ振りだろうか…。それこそ俺とルフィが山賊に捕まった時くらい…、いや、あの時以上かもしれない。

画面越しですら伝わってくる殺気に、誰しもが閉口していた。広場でこの映像を見ているであろう一般人には耐えられない殺気かもしれない。



「キイチちゃん、貴方の事を馬鹿にされてこんなに怒ってるのよ?」



ここまで俺らを連れてきた女がそう言った。視線の先には、俺。



「前にも会ったことがあるんだけど…皆の事が大切なんですって、特に貴方が」


「「「!!」」」


「俺が…」


「でもね、"優先順位はない。全員が一番に大事。"…そうとも言ってたわ」


「キイチが…?」


「えぇ」



一番じゃない。けど、一番。その言い方がキイチらしいと思った。誰が一番とも決められず、いつも"全員"が一番だと言っていた。キイチは、対角線上にいる二人が崖から落ちそうになっていたら、二人を助けるという無謀な選択肢を選ぶような奴なんだ。

その考えのおかげで、俺は幾度となく家族へ嫉妬したこともある。でも、それはアイツらとしても同じことだろう。



「(俺だって、キイチも家族も…全部が一番だよ)」



そんなキイチを見て育った俺だ。そりゃあ、キイチが一番だと考えるところもあるけど。それでも、キイチ以外の家族が傷付くのを見ると、キイチが傷付いた時と同じくらいの怒りが湧く。

モニターへ視線を移す。

キイチが血を流している。
ティーチが血を流している。



「………」



大切な家族が、大切な家族"だった"奴を殺さんばかりに刀を振り回す姿が、どうしようもなく哀しかった。




≡≡≡≡≡≡




刀を振る。血が噴き出た。ティーチの顔が歪んだ。
それを冷静に、表に感情が出ないように、刀に纏わりつく奴の血が煩わしいというように眉間に皺を寄せる。

不思議だ。先程まで、傷の痛みに苦しんでいたとは思えない自身の体の軽さに、ティーチを斬りつける度にズキズキと痛む胸に、疑問を抱く。

その痛みの理由は、知っている。

知ってるからこそ、疑問に思う。



「(俺は、まだティーチを…)」



また刀を振った。また血が飛んだ。ホルダーに収まっていた銃も取り出した。息を吹いて、能力を使って銃の中に入り込んでる水を追い出す。そしてティーチ目掛けて撃つ。血が舞う。傷もない胸が痛む。



「(家族だと、思ってる…とでも?)」



ティーチが反撃してくる。拳が俺の腹を捉える。俺の口から血が零れる。腹がみしみしと悲鳴を上げる。また銃を構えて、撃った。撃った。撃った。ティーチの血が頬に付く。胸が軋む。



「(家族を殺そうとした、こいつを――…?)」



弾が切れた。新しい弾倉を取り出し、使い終わった弾倉を投げ捨てる。ガシャンと音を立てて新しい弾倉が取り付けられた。また、撃って、斬って、撃って、斬って。そして胸が痛む。

ただ、その繰り返しだった。

一心不乱に刀を振り、銃の弾も全て打ち尽くした。それでもまだ、息がある。ティーチも、俺も。だが、胸が捩じ切れるんじゃないかと思うくらい痛かった。



「なァ、ティーチ……」


「ッ……、ぅ…あ゙……!!」



二人共血濡れでボロボロで、息を吸うのにも吐くにのも痛みを伴う。口の中に残っていた血の塊を吐き出す。



「何で、ここに来たんだ――…?」



逃げることもできただろう。明日になりゃあ、わざわざ手を出さなくとも俺は死んだと紙面一杯に書かれていただろう。なのに、なんでお前はわざわざ来たんだ?

この戦いが始まってから、ずっと頭の端で引っかかっていたそれをまた口に出す。



「ゼハ、は…どうだって、いいじゃねェか…!」


「…、ティーチ」


「遺言は、ねェよ…!さっさと殺せばいいじゃねぇか…キイチ…!!」


「ティーチ…」


「手加減なんて、しねェんだろ…!?家族の敵なんだからよ…ッゲホ、げほ!!」


「…ティーチ、…お前…」



――何で、泣いてんだよ。




















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