進呈物
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『今夜はレストランデート』
「ホントにいいの!?」
「ああ」
前々からレストランでデートしたいと言っていたヤコに、承諾の意思表示をしてやれば、ヤコは素っ頓狂な声をあげた。
その頭に手を置いて、髪の毛をくしゃくしゃにしてやれば、ヤコは我が輩に抱きついてきた。
「ネウロ、大好き!」
こんなことぐらいで、これほど喜ぶとは。
「じゃあ、早速レストラン予約するね」
パソコンに向かおうとするヤコを制して、抱きすくめる。
「それには及ばん。既に予約してある。今夜、プレジデントホテルの展望レストランで、スペシャルディナーだ」
「わあ…」
まるで花が開くようにヤコの顔が綻んだ。
かくして、我が輩とヤコはレストランデートとやらをする事になった。
***
ここは高級ホテルの最上階、夜景が見渡せる展望レストラン。目の前に広がるパノラマ風景と、数々のご馳走。
(ああ、もう、幸せっ…)
スペシャルディナーを全て平らげた私は両手を合わせた。
「ご馳走さま、美味しかった」
すると、魔人が怪訝そうな顔で尋ねてくる。
「なんだ。もう良いのか?」
ネウロの前には、運ばれてきたコース料理が、手付かずのまま並んでいる。
「でも、私の分はもう食べちゃったし…」
「我が輩の分も食べて良いぞ。貴様ならまだいけるだろう?」
「え、でも…」
周りの目が気になって、ちょっとだけ躊躇う。
「遠慮せずとも良い。どうせ我が輩は食えぬのだ。コレらを全て生ゴミにしたければ、別に構わんが」
「そんな勿体ない…。解った、食べるよ」
私は意を決して、ネウロの皿に手を伸ばした。
その時ネウロの右手が伸びてきて、私の手首をガシッと掴んだ。
***
「あの…」
我が輩の膝の上で、ヤコが口を開く。
すかさず我が輩は、その口に鴨のテリーヌを押し込んだ。
「むぐっ」
目を白黒させながらも、しっかり咀嚼し嚥下するヤコ。
その食い物に対する執着は、我が輩にも共感できて、大変好ましい。
「美味いか?」
「そりゃ、美味しいけど…」
我が輩を見上げるヤコの頬が、微かに赤らむ。
「自分で食べれるから…」
俯くヤコの顎を掴み、こちらを向かせる。
「我が輩、貴様が食う間、手持ち無沙汰なのだ。付き合え」
我が輩はニヤリと笑って、ヤコの口にトウモロコシのスープを流し込んでやった。
ヤコはピチャピチャとスープを飲み込みながら、恨めしげに我が輩を見上げてくる。
「や、もう、勘弁し…もぐっ」
更に口を開いた隙に、今度はデザートのプティングを押し込んでやる。ヤコの表情は百面相のようにコロコロと変わって面白い。
「はぁ、はぁ、あんた私を殺す気…はぐっ」
息も吐かせず、更に生クリームを纏ったイチゴを口に放り込む。あぐあぐと咀嚼する様が、なんとも愛らしい。
「…っとに、どんだけドえ…あぐっ」
抗議する隙を与えず、更にチョコレートの染み込んだプティングを押し込んでやる。
それもなんなく咀嚼して、ようやくヤコは我が輩の分の料理を完食した。
***
「もう…」
展望レストランを後にしながら、頬を膨らませる。
(膝の上で料理を食べさせられるなんて、有り得ないっ。どんな羞恥ぷれいだよ…)
ガラス張りのエレベーターで、肩を抱かれながら眼下の景色を眺める。クリスマスは過ぎたとはいえ、街のイルミネーションはまだ綺麗に瞬いていた。
「どうだ、満足したか?」
魔人の問いに、慌てて答える。
「う、うんっ…」
――チン。
ドアが開いて、エレベーターを降りる。そこはフロントではなく、スイートルームが並ぶフロアだった。
(え?)
隣を見上げれば、嬉しそうな魔人の顔。
(私、もしかして嵌められた?)
「先生、まさかご自分だけ満足して終わりだなんて、思ってらっしゃらないですよね?」
言ってる意味が解って、みるみる顔が熱くなる。
「今度は僕を、満足させてくださいね」
ウインクしながら私を羽交い締めにしたネウロは、ポケットからカードキーを取り出すと、目の前の777号室のドアを開いた。
***
「いただきます」
後ろ手にドアを閉めた我が輩は、愛しい女の耳元に囁いた。
END.
09.12.26
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[まるで涙色に染まる空みたいに]
柳沢セイ様より頂きました!!拝読した瞬間、衝動的に真夜中だというのにメールをさし上げてしまいました。今後も宜しくお願いします。