捏造小説

□進呈小説
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[Bird in flight]の
竹見朋子様に捧げます。

16歳のエンゲージ



それは天国の扉が閉められた瞬間だった。

校舎の下駄箱付近にある板書に堂々と貼り出された一枚の通知。

[一年A組 桂木弥子さん、試験についての面談があります。本日放課後、進路指導室に来て下さい。担任 脳噛ネウロ]

思わず目を見開いてしまった。

青ざめながらじりじりと後ずさりそのまま全身が固まる。手の力が抜けて、持っていた上履きが音を立て落ちたのを親友がため息まじりに拾ってくれた。

「弥子‥あんたの顔、動揺と驚愕と死相がキレイに混じってるわよ」

‥今まさにこれから有名店のケーキバイキングに乗り込むところでした。

意気揚々と靴を履き替えた瞬間、叶絵に呼び止められて今に至ります‥。


(あ、あんにゃろぉぉぉ!!!)

「まぁ後日、やけ食いには付き合うわよ」

叶絵は先の展開が読めたのか肩をポンっと叩いて苦笑いを零した。叩かれて我に返る。

「すぐ!!帰って来るから先行っててっ!!」

「期待しないで待ってるわ〜」

眼前の用紙をベリッと外すと手を振る親友を残し進路指導室に猛然とダッシュした。

ダダダ‥ガラッ
勢いよく戸を開けるとそこには憎き性悪教師!!

「どれだけ人を待たせば気が済むのですか?桂木さん。しかし廊下を走ってはいけませんよ」

「脳噛先生‥!!」
「はい、何でしょう?」

この楽しみを奪われたくなくて急き立てられるようにただ夢中で矢継ぎ早に言葉を重ねた。

「面談は今日じゃなきゃダメですか!?巷で噂の有名ケーキ店のスペシャルケーキ、全てを食い尽くすならバイキング最終日の今日しかないんです!!これから行かせて下さい!!!」

最後まで残ったケーキは処分される。大量に残るぐらいなら胃袋に収めたい。食べられずに捨てられるなんてさぞかしケーキも無念だろう。

刻一刻と閉店時間が押し迫る。食べれないのが悔しくて目に涙が溜まる。だが泣き落としや情に訴えて頼んだところで無理な相手なのも分かっているのに。

「ダ・メです」
脳噛先生はにこやかに、ぴらりと散々たる結果の中間試験の用紙を見せた。

「このままだと一年生の学年末試験で単位落としますよ。今から頑張っても仮進級、下手したら落第ですね。さて‥親御さんにどう切り出そうか僕も悩んでるんですよ」

眼を上月形に細めてとても悩んでる風には見えない。そして親にかなり恥ずかしい話が暴露されようとしている。

(‥やばい。このままだと私はお店に不戦敗して学校生活にも負ける)

謳歌したかった女子高生ライフ、なのに目の前の現実にクラクラする。皮脂から汗がにじみ出てきて胸が何かに締めつけられたように苦しくなってきた。

学食の良さだけで入学したレベルの高い私立高校。まさかここにとても口が悪くいじわるで、しかも他の先生や生徒から人気が絶大で訴えても誰も信じないというたちの悪い教師がいるとは思わなかった。

ひょっとしたら高校に入学した時点で運を使い果たしたのかも知れない‥。

「このまま事実を話して予備校に通って頂いても僕は一向に構わないのですが」

ふぅ‥とワザと顔に息を吹きかけられた。ため息を聞いたのは本日二人目だ。

「僕が全教科の補習をしましょう。カビの生えた脳でも詰め込めば何とかなるかも知れません。桂木さん次第ですが」

「‥本当に?」
「ええ。その代わり授業のお手伝いを頼みますけど」

「お‥お願いします!!」
絶望の縁を救わんとする一筋の妙光。この時ばかりはさすがの先生も仏に見えた。

‥見えてしまったのだ。



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