Novel

□優しい口付け
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今、私はイアルの家にやって来ている。

一度訪れてからは、日に日に訪れる機会は増え、休みがあれば彼に書簡で家に訪ねる事を伝えては彼の家に行っていた。

彼は忙しく、中々帰って来ない。埃を被ってゆく家具達を不憫に思い、来る度に掃除をして綺麗にした。


彼は当初、自分が居る事を知らずに帰って来た時、賊が住み始めたのかと思うぐらい、度肝を抜かれたらしい。

どうやら、忙し過ぎて書簡を見ていなかったそうだ。



「熱でもあるのか…?」


イアルの問いかけにエリンは首を傾げた。


「…え?」

「顔が赤い。じっとしていろ」



熱はないのか?とイアルは手を伸ばして、自分の額に触れてきた。

彼の冷たい手の感触が気持ち良かった。自分の体が普段より熱を帯びている感触がある。


「熱があるみたいだな…。横になれるか?」


エリンはコクッと縦に頷いた。熱がある原因は分かっていた。此処の所、中々休む暇が無かったからだ。

少しだけでも休もうと、私は言われた通りに横になった。横になると、イアルが頭を撫でてきた。


私はキュウッと胸が締め付けられるのを感じた。


彼を私は独り占めしている。彼が見せている笑みは私だけに向けられている。


その事だけで、嬉しさが心のゲージを満たしてくれる。私は思わず彼の名前を呼んでしまった。


「イアル」

「どうした?」
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