Novel
□空へと
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二人の背中に羽があれば、共にこの空を自由に飛び、好きな場所へと行けるのに――
「イアルさん」
エリンは傍らに居るイアルの名を小さな声で呼んだ。二人が居るのは花が溢れる草原。空は雲一つない晴天だ。
イアルは眠っている。彼の眠りは、エリンの呼び掛けに妨げられる事はない。深く眠っているのだ。
「…ぐっすり眠ってるなぁ」
エリンはクスッと笑い、草原を見た。心地よい風がそよそよと漂い、花の芳香が鼻をくずぐる。
ぽかぽかとした陽気は絶好の昼寝日和だ。エリンは返ってこない返答を気にする事なくポツポツと話し始めた。
「私、今幸せだなって感じてるんです。僅かな一時ですけど何だかリランを世話しているのと同じぐらい、幸せなんです」
堅き盾として仕事をしているイアル。獣ノ医術師として王獣舎で働くエリン。二人が一緒に過ごす時間はこの上なく少ない。
「リランとイアルさんを一緒の扱いをしちゃいけないとは思うんですけど、何だか例えようがないんです」
自分の幸せを形にすれば、このカザルム王獣保護場が真っ先に思い浮かぶ。
次に、お母さんと暮らした日々。そして、ジョウンおじさんと暮らした日々が浮かんでくる。