Novel

□ずっと笑いあえたら
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母が死ぬ一日前は自分の誕生日だった。

母はリランと共に地面に落ちた為、安静として部屋の中でじっとしていたが、自分の誕生日を決して忘れていなかった。


「誕生日おめでとう、ジェシ」

「おめでとう」


父も母と同じように誕生日を忘れていなかった。

二人は寄り添って自分に微笑んでくれた。


「へー…忘れてなかったんだ。てっきり頭の中から消えちゃってるのかと思ってた」


恥ずかしさのあまりに嫌みな口調になってしまったが、二人は表情を変えずに楽しそうに笑った。


「これはお母さんから。こっちはお父さんからのプレゼントだ」


父が動けない母の代わりに二つの物を手渡してくれた。一つは何かの本、もう一つは木を削って出来た家族の彫刻だった。


「うわ…もっと良い物を期待してたのに」


言葉とは裏腹に自分は嬉しかった。本は母が昔から持っている物なのかぼろぼろだ。中には獣についての内容が載っていた。

彫刻は指物師の父の腕で出来たものだろう。彫刻の三人は微笑んでおり、見るだけで心が温かくなった。


僕は二人からの贈り物をギュッと胸に抱いた。


「さぁ、ご飯にしましょう。エサル先生がちょうどファコを作って持ってきて下さっているはずよ」

「ホント?一緒に食べられるの?」


僕は驚いた。母は体調が悪化してはいけないということで、自分や父は一緒に食べる事が出来なかったのだ。


「今日一日はお許しが出たの。三人で一緒に食べまさょう」

「やった!」

「そう、はしゃぐな。お母さんはまだ体調が良くないんだからじっとしろ」


父に苦笑され、母に笑われ、浮かれた自分が何だか恥ずかしくなった。


「はぁーい…」


母がクスクスと笑う。何だか、久しぶりに、家族で笑い合えている気がする。


「あら、楽しそうね」


エサル先生が出来たてのファコや食べ物を持って入ってきた。エサル先生も、母や父も笑っている。家族三人での楽しい誕生日。


僕のこれまでで幸せな記憶の一つだ。


Fin.

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