御礼企画

□焼き餅妬いてみました
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※きり丸高学年設定です。






「でね。利吉さんが…」




利吉さん、利吉さん…


先刻から繰り返されるその名、


きり丸の口から本日何十回と紡がれた利吉くんの名に大人気ないと判っていながら‐‐‐


それでも口角を引き下げてしまった。






手際良く城に忍び込む手段、


必要な情報を手に入れる手管、証拠を残さない方法…


次々に口をついて出る利吉くんの仕事振り。


本当に売れっ子フリー忍者な訳ですよというきり丸の頬は、興奮に色付いていた。








きり丸は日頃のアルバイトで培った能力を買われて、今回仕事の補佐を利吉くん直々に依頼された。


担任である山田先生やわたしにとっても、きり丸の特技を生かせるそれは何よりも嬉しい提案だった。


しかも良い銭儲けになるとなれば、きり丸は二つ返事で了承した。



実戦で学ぶ事がきり丸に取って何よりの糧になる事は判っている。


実際やってみなきゃ判らないし、肌で感じた事は忘れない。例え何らかの失敗しても、次に生かせるだろう。


そう考えて、行っておいでと背を押した筈なのに、


無事に任務をやり遂げて帰ってきたきり丸の成長を共に喜びたいと思っていたのに…


腹の内に踞るのは教師としての自分の在るべき姿とは正反対の感情だった。



目を輝かせて、利吉さんは凄いを連発するこの子に、それは授業で教えた基本事項だろうという台詞が喉元まで出かかっていた。



‐‐‐大人気なさすぎる思考に、我ながらうんざりしてしまう。



こんなことで子供のように拗ねていじけて、ましてやきり丸に八つ当たりなどして良い筈がない。


溢れそうになる溜め息を無理矢理飲み込んで、相槌を打つ。



それでも、「利吉さん」ときり丸が頬を染める度に、ジワリと拡がる胸の焦げ付き。


それは、明らかに嫉妬でしかない。



‐‐‐判っている。


きり丸は、肌身で感じた実戦の体験をわたしに伝えてくれようとしているのだと。


そして、その先導として利吉くんは適任者だったんだと…


沸き上がる子供っぽい独占欲に情けなさを覚えて、手にしたまま捲ることすら忘れていた書物に視線を落とす。


嬉しそうに話すきり丸の顔を素直に見れないのは、己の未熟さでしかない。




「…それから城下で情報を集めるために茶屋でバイトしたんすけど、利吉さんに褒めてもらいました!」


「そうか良かったな…で、どんなことを褒めてくれたんだ?」


きり丸はふふっと自慢げに八重歯を覗かせた。


「女装すっよ。前より一段と巧くなったって…その辺の町娘より数段可愛いって褒められちゃいました。」


その女装のお陰で、思わぬ情報も掴めたと得意気に話すきり丸は、女装なんかしていなくても誰よりも可愛い。


誰よりも可愛いなんて、そんなことわたしは随分前から知っているんだ。






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