御礼企画

□月夜の一瞬
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※6年生のきり丸と団蔵です。






「‐‐‐何やってんだよ?」


気が付くと月明かりを背にして、きり丸が立っていた。


ぼくは忍たま長屋の屋根の上で、仰向けにひっくり返ったままゆっくりと顔を上げる。


「何って…月見かな?」


「…かなって、なんだそれっ。目ぇ瞑ってたら月なんか見えねえだろ。風邪引くのが関の山だよ。」


確かにもうそこまで春が来ているとはいえ、夜は随分と冷え込む。


でも夜間訓練を終えたばかりのぼくにとっては冷たい瓦が心地よくて、ついうたた寝をしてしまった。


「…アハハッ。鍛練した後だから、ちょっと涼んでたのもあるんだよ。」


口は悪いが、ぼくを心配してくれているのが分かるきり丸の口調に小さく騒ぎ始める胸の内。


いつまで経っても慣れることなどないそれを押しやって、ぼくは熱の引いてきた身体を起こし、胡座をかく。


「…やっぱり鍛練バカだな。」


きり丸は呆れたように息を吐き、ぼくの隣にドカリと腰を降ろす。

「寒いんなら、長屋に帰ればいいのに…」


「ま、たまにはおれも月見と洒落込もうと思ってな。」


ジトリと睨んだぼくを見て、にやりと八重歯を覗かせた顔は、酷くきり丸らしかった。


互いに歳を重ね、子供らしい丸みを帯びた輪郭は、すっきりとした大人っぽいモノに変わっていった。


ゴツゴツとしてきたぼくとは違い、きり丸は艶やかな黒髪と相まって、どんどん綺麗になっていく。


綺麗なくせに口が悪くて、斜めから物事を見ている所があるきり丸だけど、その実、誰よりも気を遣う優しい奴だという事もぼくはちゃんと知ってる。


そして、きり丸がどんどん綺麗になっていく訳だって、ちゃんと知っていたんだ‐‐‐


きり丸を好きだと気付いて、その姿を追う様になって、嫌でも気付いたあの人の存在‐‐‐



それでもぼくは変わることも出来ず、きり丸への恋心も遂に捨てられなかった。



きり丸はきり丸のまま…ぼくの同級生で友達まま、出逢ってから6年、きり丸への恋に気付いてから4年の月日が流れた。


いい加減捨てなきゃいけないと判ってる想いを未練たらしく引き摺って、ぼくは未だにきり丸に何も伝えられないまま、春の別れの時期を迎えようとしていた。


迷惑にしかならないと、


気を遣わせて、苦い思いをさせるだけのぼくの想いは伝えない。


それはぼくの小さな矜持だった。


きり丸のあの人への想いも、あの人のきり丸への想いもとうに気付いていたから…


ぼくの虚しい想いは封印して、友達のフリをすると決めてしまった。



「ああーっ!もう卒業かぁっ!」


ぼくは大袈裟に伸びをして、声高に口にした。


「…だな。なんか今となっては、あっと言う間というか…長かったと言うか…」


「…って、どっちだよっ!」


きり丸の言わんとしてる事は何となく分かっていたけど、ぼくは冗談ぽく笑う。


きり丸も楽しそうに笑っていたから、淋しいなんて思う必要もない。


「卒業したら、可愛い子捕まえよ〜っと。」


くのいちは怖くて、彼女なんて作れなかったからねとぼくが言うときり丸もそりゃそうだと声を上げた。


「‐‐‐ぼくね、きり丸と友達に成れて良かったよ。」


冗談ぽく言うつもりだったのに、思っていたより声が低く響き真剣味を帯びてしまった。


「おれもそう思ってる。…は組の皆、凄く大事だよ。」


きり丸はぼくの青臭い台詞を笑うことなく、静かに瞼を伏せた。


冷たい夜風になびくきり丸の髪が淡く輝く月光に色付いていた。








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