御礼企画

□その先へ
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「次、乱太郎ときり丸、しんべヱ…来なさい。」


誰も帰って来ない教室には、もうおれ達しか残って居なかった。


いつもの三人で呼ばれた事にホッしつつ、だからと言って忍務が簡単になる訳ではないだろうと判っているおれ達は先生達を前に何処かぎこちない動作で正座をする。


張り詰めた空気の重さはやはり居たたまれなくて、おれはやけに渇く喉をごくりと鳴らした。





「―――今回のお前達の実習は密書を指定の城主に届ける事だ。」


「「「……へっ?」」」


山田先生の説明におれ達は揃って間抜けな声を上げていた。


やり慣れた忍務にどっと肩の力が抜けてしまった。


「な、なんだぁ…どんな大変な忍務かと思っていたのに、先生びっくりさせないでくださいよぉ。」


しんべヱの気の抜けた台詞に頷きながら、先生に視線を移した。


が、ピリッとした表情を崩さないその態度に、緩み掛けた気持ちは一瞬で霧散した。


乱太郎とふたり困惑気味に眉を潜めれば、しんべヱも空気がおかしいことに気付き居ずまいを正した。





「…今までのお使いとは訳が違うぞ。」



土井先生は淡々とした口調でおれ達を見回した。


「今、戦をしているある城に関する重要な…それこそ戦の勝敗を決める様な大事な密書だ。しかも今回は教師陣は何があっても手を出さない。無論、わたし達担任はお前達が忍務を終了させるまでは学園外に出る事を禁じられている。」



「敵方の忍者は密書を持つ者を血眼に為って狙うだろう。それでも、お前達三人だけでこなさねばならない実習だ。―――つまり、敵に暗殺される危険がかなり高いと覚悟しておきなさい。」


土井先生の説明に続く山田先生のゆっくりとしたそれでいて厳格さを孕んだ言葉に、おれ達は目を見張った。




暗殺と言う言葉にドクンと心臓が跳ねていた。




「「「…っ!」」」



「殺されたくなければ、上手く逃げ通すか…忍務を遂行する為に誰かを劣りとして犠牲にするか。いざという時にはお前達の手で追っ手の息の根を止めなければ勝機はないと思いなさい。」



土井先生の台詞は授業中に心得として散々聞いてたものだった。


忍びに重要な事は忍務を全うし、帰還する事。だから逃げる事も大事なのだと…


が、忍務を全うする為には自分の手が血塗られることや最も信頼している仲間を犠牲にしなくては成し遂げられない事もあるのだと…



何度も聞かされていた筈なのに、おれはまったく理解できていなかったらしい。




今までおれ自身明日をも知れないような時期もあったから、自分自身に何が在ってもいいと何となく覚悟は出来ているんだと思っていた。


しかし、今回は簡単に自分だけがどうこう言う問題じゃない…


しかも、おれには学園に入ってから手放し難いものが沢山たくさん出来てしまった。



もし、万が一そういう状況になったならば―――おれに乱太郎やしんべヱを犠牲にしてまで忍務を遂行する覚悟があるのか?!



今まで大事にしてきたものを簡単に捨てれるのか?


考えただけでゾッとした。








怖いと思った―――




おれはこの時、学園に来て初めて忍びとして生きる怖さを思い知った―――









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