御礼企画

□その先へ
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教室からよく馴染んだ四つの気配が遠ざかる。


張り詰めた空気を少しでも和らげようとおれは深く呼吸をした。



先生達が居なくなった待機時間にも関わらず、教室は重い静寂に包まれたままだった。


お互いに様子を伺いながら、それでも何故か話をするきっかけが見つからず沈黙を守っていた。







「…はにゃ〜。先生達、なんかいつもと違ってたね…」


誰も口を開かない緊張に耐えかねたように、喜三太が大きく息を吐き困惑したように眉尻を下げた。


「うん、そうだよね。僕…なんか怖かったよ。」


しんべヱが後ろを振り返り、喜三太の様子にホッした表情を浮かべて大きく頷いた。


喜三太としんべヱの会話をきっかけに、教室の空気が少しだけ和らぎ、徐々に会話が生まれはじめる。


こういう時この二人はごく自然に、おれ達を落ち着かせてくれる。



過ぎた緊張は忍務にいい成果をもたらす筈がないと判っていても、己を律することは難しいのだ。


本人達は意図的に空気を変えている訳ではないらしいが、何気なく自分の弱さをありのままに出してくれる二人の存在がおれには有り難かった。




「…いつも以上に危険な忍務なんだろうね。」


三治郎の言葉に、兵太夫がどっちにしろやるしかないんじゃないと不機嫌そうな表情をつくり頬杖を突く。



「二人ずつだとひとり余るけど、どうなるのかな?」


虎若がぐるりと残ったは組のメンバーを見回し、首を傾げる。


「そりゃあ三人組にするだろ。」


おれが今までのパターンならおれ達だろうなと苦笑いをすると、乱太郎としんべヱがおんなじ顔して笑っていた。


「私はその方が嬉しいけどね。」


同じ事を思っていた乱太郎の言葉にしんべヱと二人、まあねと相槌を打つ。


「でも、三人組だから楽とか云う内容じゃないんだよね…たぶん。」


金吾が苦い顔をして首を竦めると、あー気になるっ!早く順番来ないかなと、団蔵が正座していた足を崩しばたんと前に投げ出した。




少しずつ緩んできた空気にホッしつつ、おれは先生達が出ていった教室の引き戸に視線を移した。






ザワザワと落ち着かない胸の内。


何故か土井先生の硬い表情がおれの心を占めていて、不安が募っていた―――









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