戦国LOVERS奥州夢物語
□奥州夢物語「竜が生まれた日」
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奥州夢物語
「竜の生まれた日」
「お前が輝宗様の子か」
俺より年かさの、恐らく小十郎と同じぐらいの長髪の男が俺に声をかけた。
「貴様は何者だ?」
見たことのない男の挑戦的な口調に俺は声を荒げて聞く。
「俺は伊達成実、お前の従兄弟だ。今日よりお前の付き人となる」
「…付き人だと!?口うるさいのは小十郎一人で十分だ」
俺がそう反抗すると、成実は不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
「小十郎はお前に学問や礼法を教えるのに適しているが、武芸や戦略は人並み以上だが俺には劣る。本来なら輝宗様の命でなければお前なぞ教えぬが、伊達家のためだ。特別にこの俺が教えてやろう」
「お前なぞの教えは受けぬ!!」
挑発的な成実の言葉に俺は反抗した。
「お前が生まれなければ、伊達家の家督はこの成実のものだった」
突然成実は真顔になって俺に言った。
「お前が俺を越えなければ、伊達家の家督は俺が継いでやろう」
「貴様なぞに家督を譲るか!」
「ならば俺を屈服させて見よ!晴れて俺がお前を主君たるにふさわしいと認めたなら、俺はお前の付き人となってやる」
成実はにやりと笑い、俺に言い放つ。
「いつでも家督は譲り受けるぞ!」
成実は豪快に笑いながら去っていった。
成実の挑戦を受け、俺はいかに成実を参らせるかを考え抜いた。
ただ小十郎には頼らなかった。男と男の真剣勝負に、口出しされたくはなかったからだ。
俺は伊達成実という男を見定めたかった。
俺の右腕であり師でもある小十郎以外に、俺が信頼できる家臣が欲しかったからだ。
俺は常に母に命を狙われている。そして母の味方は城内に多い。俺は生き残るために、そしていつか天下を取るために、有能で使える人材を求めていた。
俺は考えぬいた末に、成実を呼び出した。
「成実」
「何だ、俺に家督を譲る決心がついたか?」
「否、俺は貴様のために家督を譲る気はさらさらない」
俺はひたと成実を見据える。
「伊達成実、お前は一つのところに落ち着けぬ狼よ。狼には狼の役目がある。お前は、俺のために伊達の軍を鍛え精鋭としろ。俺は知では小十郎にかなわぬ、そして武芸では確かにお前に劣るだろう。だが、俺はお前と小十郎にはないものを持つ」
「ほう、それは何だ?」
成実が面白そうに聞く。
「俺は伊達家の当主となり、必ずお前達を適材適所で使いこなしてやる。俺は俺のやり方でお前たちを屈服させてみせる。狼には狼の使い道が、梟には梟の使い道がある、どうだ成実?」
成実は真顔で表情を消して考えこんでいたが、ふっと降参だというように笑い、手を床につき、頭を下げた。
「若、今までのご無礼、どうかお許しを。この伊達成実、命をかけて若にお仕え申し上げる」
「…成実めとともに某、梟も若にお仕え申し上げまする」
小十郎も密かに入って来て俺に臣従の礼を取った。
俺がまだ右目を失う前の幼き日の誓い。
伊達の双璧と俺の絆はこうして世に誕生した。
俺が幼き竜となる目覚めだった。
【完】