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□球磨川禊のとある一日
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どうしてだろうね。
ちょっと状況を整理しようか。
事の発端は、僕が善吉ちゃんに悪戯をしていたことみたい。
廊下でばったり遭っちゃったんだ。
言っておくけど、たまたま、偶然だよ? 決してストーキングの成果により善吉ちゃんがこの時間この廊下を歩く確率が高い事に気付いてそれを見計らいここを通った為に出くわしたわけじゃないよ。
「げっ!?」
なんて、彼らしい可愛くない可愛い反応に対して、僕はにこやかに対応する。
『やあ、善吉ちゃん。偶然だね?』
「昨日もここで遭った気がするのは俺の気の所為ですかね」
『やだなぁ、そんなの偶然に決まってるよ』
「その前もその前もここで遭ってるけど気の所為ですか?」
『わぁ、偶然ってすごいね』
『それに、善吉ちゃんもよく覚えてるね。記憶力いいよ』
「そりゃあ、10日連続じゃ嫌でも覚えますよ」
偶然ってすごいね。
それにしても、どうしてそんなに嫌そうな顔するのかな?
こんなに偶然が続けば、僕なら、いや普通なら、運命を感じちゃってもよさそうだけど?
「呪われてるのか、俺…」
そんな独り言が聞こえた。
呪い? 祝いの間違いじゃないかな。運命を祝福されているんだね、僕ら。
『ここで会ったのも何かの縁だね。一緒に遊んでいかない?』
「いつも言ってますが遠慮します」
『もうっ、いけずぅ』
嫌そうな顔しないでよ。失礼しちゃうね。
『毎回こんなに誘ってるのに、いっつも無視するよね』
『寂しいなあ』
「笑顔で寂しいって言われても説得力無いし。つーか、アンタの誘いに乗るわけないじゃないですか」
どうして?
そう僕が尋ねたら、当然の如く
「アンタはめだかちゃんの敵だからだ」
と返された。
どうしてかな。僕はめだかちゃんの敵であれ、普通で普通な善吉ちゃんの敵であるつもりは無いのに。
僕は善吉ちゃんのこと、好きだよ?
「アンタが何言おうと、何考えてようと、めだかちゃんの敵なら俺にとっても敵なんだよ」
可愛く睨んで可愛くないことを言う善吉ちゃん。
悲しいなあ。けっこう本気なんだけど。
「寒い冗談はいいから、俺をとっとと生徒会室に行かせて下さい」
『うーん、どうしようかなあ』
僕らがいるこの廊下は、生徒会室に続いている。
生徒会室は僕のいる方だから、僕がどかないと善吉ちゃんは通れない。
いつもは、まぁいいよ、なんて言って通してあげてるけど……
『善吉ちゃんが僕と遊んでくれないから、嫌』
って、おちゃめに言ってみた。
「通して下さい」
『ちょっと』
『スルーしないでよ』
流石にちょっと怒っちゃうよ?
「うっ……」
『あ、僕が怒るの、嫌?』
『やっぱり、怖い?』
図星なのか、悔しそうに歯をくいしばる。可愛いなぁ。
『じゃあ、おとなしく僕と遊んでね』
「……わかりましたよ…」