アゲタモノ

□だって貴方が好きだから
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「……何していた」

突然そう言われて戸惑ってしまった。何のことだろう。何したっけ。

「…………廊下で、誰と話していた?」

話した。
話していた。
不思議なことはない、同じクラスの男子とだ。
それがどうしたんだろう。

「…………何、話していた?」

何だったっけ。忘れた。

「…………本当に?」

本当は覚えている。鮮明に。
でも、言えない。
だから嘘をつく。本当だよ覚えてない。

「…………嘘だな」

嘘をつくのが上手い下手以前に、貴方はなんて鋭すぎる。

「…………俺にも、言えないことなのか」

恋人である自分にも。

そう、言外に聞こえた。

そうだ、恋人だ。わかってる。
だから。
だからこそ、言えない。言いたくない。

「………………」

黙ってしまった。
どうしよう、怒ってる?
怒らないでよ。
でも、言えばもっと怒られそうだから……

「…………どうしても、か……?」

そっと眉間に皺を寄せながら上目使いで涙に揺れた瞳を俯き頬にかかった前髪の間から覗かせて首を傾げる恋人の姿に思わず口を開きそうになった。
くそう可愛い。

…………涙に揺れた?

あれ、なんで泣きそうなの?

「…………そうか、言えないのか……」

えー。
待って待って。

「…………あんな楽しそうに話して……俺には、言えないのか……?」

あー。
あーもー。
仕方ない。
正直に話すよ。

話すからもう怒らないでね。嫌わないでね。


康美ちゃんファンに、こっそり撮った写真売ってその可愛さを自慢してのろけて、でも本人は誰にも渡さないと権勢をかけてたんだ、って。

でも貴方も恋人を隠し撮りしてるから、おあいこだよ。
まぁ貴方は、それを誰にも売ってないみたいだけど。


そう言えば貴方は怒るかな。
そうしたら、照れた貴方に、もう一言……

何を言ってあげようか?
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