□ぱっつんヘアー
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それはある午後だった。
 
 
「伸びたな……切るか」
 
神田はおもむろに六幻を手に取った。
 
「……なにしてるんだい?」
「ん?」
 
振り向くと、そこに居たのはコムイ。
 
「何もなにも、髪が伸びてるから切ろうかと」
「そんな切り方してるから、パッツンって言われるんだよ。ちょっと待ってて」
 
別に気にしているわけじゃない、と言い返すことはできず、というか実は気にしている節もあったため、その場を離れた彼を神田は大人しく待つことにした。
というか、仕事をさぼってまた何をしてるんだ、あいつは。
 
 
「さてと。じゃあ、そこに座って」
 
鋏を持ったコムイに促され、椅子に腰かける。
神田の肩にタオルを掛け、彼は髪を切り始めた。
 
「いつもあんな切り方だったの?」
 
ただじっと黙っているのもつまらないだろうと思ったのか、コムイは神田に声をかけてみる。
 
「いつもは任務があるからな。仕事をしていれば、伸びる前に切れる」
「……そういうもんかい?」
 
呆れられる。
いくらなんでも、それで済ますのはどうだろうか。
 
「せっかく綺麗な髪なのに。勿体無いなあ」
「そうか?」
「そうさ…!」
 
ふと、コムイの手が止まった。 
 
「…どうした?」
「…ナリーの……」
 
小刻みに震えだすコムイ。
 
ヤバい。
 
そう神田は思ったが、
 
「リナリーの世界一の美髪は燃えちゃんたんだよ!? リナリーの! リナリーの髪があっ!」
 
遅かった。
 
鋏を持ったまま暴走しだすコムイを、神田にはもう止められない。
 
「お、おいコムイ!」
「リナリーの髪が……世界一の美髪が……! はっ!? じゃあ今度からは君が世界一だとでも……!??」
「は!?」
「この髪か! この髪がそんな戯言を…!」
「言ってない! 言ってないぞそんな事!」
「煩い! そんな髪燃やしてやるう!」
 
どこから出したのか、もしかしたら最初からそのつもりで用意していたのか、コムイの手にしたライターが着火される。
 
「待て! 落ち着けコムイ!」
 
さすがにそれはさせてたまるかと、全力でコムイを抑えつけようとするが、今のコムイにそれでは力不足なようだった。
じりじりと迫る炎が熱を向ける。
 
「リナリーの為にその髪を燃やすんださあさあ!」
「ぐっ……くそ…!!」
「!!?」
 
突然だった。
目の前に迫っていたコムイは、その場に倒れこんでしまった。
 
「……大丈夫か、神田?」
 
疲れた表情で、リーバーが問うた。
 
「まったく、目を離すとすぐに遊びに出る……。いい加減にしてもらいたいもんだ」
「こっ……」
「ん?」
 
神田は大きなため息を吐いた。
 
「こっちの台詞だ……」
「いや、すまん。
 ところで、何やってたんだ?」
「髪が伸びたし、切ろうかと」
「なんだ、そんなことか」
 
ちょうどいい。
そうリーバーは微笑みかけた。
 
 
「さっきティエドール元帥がお前を探してたぞ。なんか用があるらしい。ついでにやってもらったらどうだ? 元帥の弟子として傍にいたときは、元帥にやってもらってたんだろ?」
 
 
目を覚ましたコムイが「親子水入らずだね」とかほざいたので、とりあえず斬ろうかと思った神田だった。
 
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