brothers conflict
□きょうくんとばんごはん
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基本的に朝日奈家では、朝食と夕食はできるだけ家族揃って食べることになっています。
もちろん、全員が揃うことは難しいのでその日家に居た者だけとなるのですが。
今日居ないのは…光、だけですね。
「あー腹減ったー。京兄晩飯何ー?」
「椿、先に手を洗ってきなさい」
「きょうくーん。ななしさん、あらってきたよー」
「へーい」気の抜けた返事をし、洗面所へ向かった椿と入れ替わりでやってきたのは末っ子の名無しさん。
一緒に戻ってきた梓に抱き上げてもらい、子供用の椅子に座る。
今日はオムライスにミネストローネ、サラダを用意しました。
「あっくん、ケチャップかいてー」
「いいよ。何にする?」
「んっとね、くまじろう!」
梓が名無しさんのオムライスに、ケチャップで熊次郎をかいていく。器用なものですねえ。
全員の分の夕食を並べ終えた私も席についた。
「あれ?名無しさんのサラダ、トマト入ってなくない?」
「いえ、一応入ってますよ。細かくしてありますが」
名無しさんはあまりトマトが好きではないようで。ケチャップやミネストローネなど加工されていれば平気みたいですが、生の物が苦手で、以前サラダに入ったプチトマトだけを残していたことがある。
好き嫌いは良くないので、どうにか食べられるようになってもらいたいものですが…。
何せ、甘やかす者がたくさんいるのでね。
今日のサラダにはプチトマトを更に細かくしてみました。
「名無しさん、サラダも食べてくださいね」
「はぁい………」
レタスと一緒にトマトをフォークで刺した名無しさんは、しばらくそれを見つめたいた…いや、睨んでいたが正解でしょうか。
「名無しさん、んな見つめてもトマトは減らねーぞ…」
「ゆーくん……」
「うっ、そんな目で見つめるな…!」
無意識に兄弟をつぶらな瞳で見つめる名無しさんは正直、たちが悪い。あの目に見つめられると甘やかしたくなる者が多数。しかし甘やかせば後々私に怒られるのが分かっているので、このときの名無しさんとは目を合わせないのが懸命なのです。少し、可哀想な気もしますが…。
「きょうくん…」
「…仕方ありませんね」
「「「!!??」」」
私がため息をつくと、一部の弟たちが一斉にこちらを向いた。
「…京兄が折れた」
「…流石名無しさんだな」
「うん、流石名無しさんだね」
三つ子、聞こえてますよ。
昴、侑介、言いたいことがあるなら言いなさい。
「名無しさん、その一口だけでも食べられたら、要が貰ってきたケーキをあげましょう」
「…やっぱ京兄は京兄だったな」
「バカ侑介!聞こえる!」
「聞こえてますよ、椿、侑介」
全く…。
ケーキ、と聞いた名無しさんはひたすらサラダと見つめあったかと思えば、フォークを強く握りしめた。
そして刺したままだったレタスとトマトを、目をつぶって口にいれた。
「お、食べた」
その呟きは誰のものか。全員が名無しさんとトマトの攻防の行方を見守っていた。
少し、涙が滲んできたようですが…。
「………ゴクン。ぅ、ふぇぇ…」
「…泣いちゃった」
「よっぽど嫌いなんだな、トマト」
「でも…食べれたね、トマト」
飲み込んだ直後、泣き始めた名無しさんを梓と椿が慰める。棗と琉生も顔を見合わせて笑っていた。
「名無しさん、ちゃんとトマト食べれたね。いい子」
「よーしよし、名無しさんー。あとは棗が食べてくれるからなー」
「ふ、ぇ、…なっくん」
「分かったわかった。ほら、皿貸してみ」
残りのサラダを棗が食べ終えると、名無しさんは私を見てきた。
「きょうくん…」
「――よく食べましたね。偉いですよ、名無しさん」
さ、ケーキを用意しましょう。と微笑めば、名無しさんの顔にも笑顔が戻ってきた。やはり、名無しさんには笑顔が似合います。
「要、ケーキを出してきて選んでおいてください」その間にコーヒーと紅茶、それからココアを淹れて来なければ。祈織が手伝いをかってでてくれたので、紅茶を任せました。祈織の紅茶は美味しいですからね。
「名無しさん、どれがいい?」
「ななしさんがいちばんに、えらんでいーの?」
「あぁ、いいよ。頑張ってトマト食べたからね」
「わぁい!ありがとーかーくん!」
聞こえてくる名無しさんと要の会話がどこか微笑ましかった。
「名無しさん、もうすっかり泣きやんだね。右京兄さん」
「ええ。あの子には笑顔が一番ですからね」
ティーポットにお湯を注ぐ祈織の隣でコーヒーを淹れながら、先程の名無しさんの泣き顔を思い出した。そこまでトマトが嫌いなのは問題ですが、今度はもっと工夫して、名無しさんが笑顔で食べられるようにしてみましょう。
さて、名無しさんの為に美味しいココアをいれなければ。
◇きょうくんとばんごはん◇
(ななしさん、いちごのケーキがいい!)
(弥は?どれにする?)
(僕チョコレート!)