WORKING!!
□8品め!
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「はぁ…」
「どーしたんですか杏子さん」
行儀悪くカウンターに腰掛けた杏子のため息に、近くで食器を拭いていた名無しさんが問い掛ける。
「何かウチの店の料理もう食い飽きたなあ」
「そりゃあそれだけ食えば」
床掃除中の小鳥遊が冷静に突っ込んだ。
彼女の周りには、何十にも重ねられた皿や綺麗に食べ終えられたパフェの器がいくつも置かれていた。
見てるだけで気持ち悪くなるような量だ。
「働かざるもの食うべからずですよ。太りますよ」
「アホか小鳥遊」
相変わらず年上には容赦ない小鳥遊の言葉に、杏子は彼を蹴飛ばす。
「働かねーんだから食うしかねーだろ」
「働けよ」
「でも杏子さん、食べる量の割に細いから羨ましー」
杏子と小鳥遊のコントのようなやりとりに笑っていた名無しさんは、杏子の腰の括れに目をやった。
元々、名無しさんは少食なので十分細いのだが、女心としては食べても太らない体質というのは羨ましい。
「――お前はもうちょっと食べなきゃ駄目」
「あ、潤さん」
後ろから腰に回ってきた腕はキッチンを担当する恋人のもので、名無しさんはお腹の辺りで組まれた彼の手に、自身の手を重ねた。
「――名字無しさんさん、そんなに少食なんですか」
2人の世界に入るのは気が引けたが、つい会話に入ってしまった。
この間2人で食べに来た時に彼女が頼んだチキンドリアは完食されていたからだ。
「しっかり食べてるよー?」
「名無しさんのしっかりは少ないからな。この間のチキンドリアも3分の1は俺が食ったし」
「あ、あれはー…予想以上に多かったのー」
「はいはい」
疑問は解消したが、この少しのやり取りの中でもじゃれる2人はやはりラブラブだな、と小鳥遊は温かい目で名無しさんと佐藤を見る。
「名無しさん、今度から私の所へ持ってこれば喜んで食うぞ」
「「アンタは食い過ぎだ」」
小鳥遊と佐藤が見事にハモった。