WORKING!!
□1品め!
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「で、今日から働かせて頂きます。
小鳥遊宗太。16歳。高校生です」
ワグナリアに新しいバイトが入ってきた。
種島の後輩らしい、人の良さそうな青年だ。
「“しょうちょうゆう”とか“ことりあそび”とか言われますが、タカナシです!」
「私種島ぽぷら!
ぽぷらの木のよーに大きくなれと名付けられました!」
小鳥遊に負けじとぽぷらもまた、目一杯手を伸ばしながら自己紹介をしている。
名前の由来とは裏腹に小さいぽぷらを見て、小鳥遊は何やらお気に召したらしく、ほんわかと周りに花を散らしながら頬を赤らめた。
「ほら!名無しさんちゃんも自己紹介して!」
「んー…?
えーと。名字無しさん名無しさん。17歳です…?」
「何で疑問形なの!?」
のほほーん…とほわほわした空気でマイペースに自己紹介を終えた名無しさんは、ぽぷらの頭を一撫でしキッチンへ入っていってしまった。
「んもぅー名無しさんちゃんはー。
あ、お互い変わった名前だけど間違えないようにしよーね!
――かたなし君!!」
(間違っとる…!)
「潤さーん」
「ん?名無しさん」
ぽぷらたちから離れ、キッチンへやってきた名無しさんはヒョコ、と顔だけを出し同じ職場で働く彼氏の名を呼んだ。
彼――佐藤潤は動かしていた手を止め、呼ばれた方を見て、僅かながら頬を緩ませた。
「今ねー新しいバイト君に自己紹介してきた」
「あぁ…あの変わった名前の。
……男か」
チラ、と小鳥遊を見遣りまた視線を戻す。
見た所(名無しさんに)そんな害はなさそうだな…と分析をしながら、名無しさんを手招きし、両手を広げた。
「おいで」
そう言えば、満面の笑顔で腕の中に飛び込んでくる彼女。
この瞬間の名無しさんが可愛くて仕方ない佐藤は、仕事中といえども抱き着き癖のある名無しさんを甘やかしてしまうのだ。
「そーいえば、店長自己紹介してない」
「…普通店長がまず自己紹介するもんじゃねぇのか?
――あ」
噂をすれば…とホールへやってきた店長と目が合い、訝し気な表情になった佐藤。
佐藤に抱き着いている名無しさんはそれに気付かず、幸せそうにしている。
「佐藤…――仕事しろ」
「アンタにだけは言われたくねーよ」
カウンター越しに佐藤にだけ敵意を向けた杏子は、小鳥遊たちの方へ歩いていった。