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□笑顔
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あの人の印象は?
と聞かれたら、昔の俺は「刃のような人だ」と答えただろう。
最初は美人だなぁとしか思ってなかった。
俺の好みとは違うし。
でも、俺の周りではあの人のことを気にかけていたやつが何人かいたようだった。
いつもの任務の帰り道、俺はある場面に出くわした。
「ヒィィィィ!助けてくれぇー」と叫びながら男が走ってくる。
俺は刀を抜きながら男に飛び掛かる影に立ち塞がった。
ガキィンッと刀がぶつかり合う音が響き、追っ手の顔を見た俺は驚愕して叫んだ。
「砕蜂隊長?!」
叫ぶを無視して砕蜂は言った
「退け」
そして俺の後ろに音も無く回り込むと、隠れていた男に切り掛かった。
「グアァァァ」と叫び男は喉笛から血液を噴き出しらせて事切れた。
砕蜂は返り血を浴びながら無表情でその場に立っていた。
「何故殺したんスか!」
俺が問い質すと、砕蜂隊長は無表情で「隠密機動の任務で殺した。邪魔をするな」と言い放った。
そう言い放つ砕蜂隊長は何かを背負っているようで、痛々しくて、もろい刀みたいだった。
俺は隠密機動のことは知っていたが、実際に暗殺の場面を見たことはなくその場で固まっていた。
「お前は、…九番隊の檜佐木…だったか?」
と問い掛けられ、「はい」と答えれば
「そうか、もう二度と邪魔をするな、邪魔する者は消す。」と言い放ち消えた。
俺も困惑しながらも急いでその場を後にした。
それからしばらく経ったある日、俺は砕蜂隊長を見つけた。
二番隊に書類を届けに行く途中で、茂みにしゃがみ込んで必死に黒猫にむかってねこじゃらしを動かしていた。
しかし黒猫は逃げてしまった。
その時の砕蜂隊長の表情は、暗殺をしていた時の無表情とは違い、切なそうな、苦しそうな美しい笑顔だった。何か呟いているようだったが、ここからは聞こえなかった。
時折吹く強風のように俺の胸の中がザワッとうごめいた。