ログ・ホライズン

□SUNNY DAY SONG
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事前の打ち合わせの結果、四人はエルダーテイル内でも結婚というシステムを重視するという結論になり、結婚式自体は、エルダーテイルのクエストに従った。そのため、μ′sの出番は、披露宴会場に移った。

前奏が始まった。

披露宴会場には、観客を驚かせる声が響きわたっていた。
「いくよ! μ′s、ミュージック、スタート!」
叫んだ穂乃果の手には、真っ白な手袋。
それは9人みんなとお揃いの、タキシード衣装。もちろん、イベントではドレスを着た凜もだ。
9人は、重ねた手を離して、穏やかな表情で、まだ空いていない扉を見つめている。

その扉の向こう側では、シロエが緊張した面持ちでアカツキの手を握っている。
アカツキは、純白のふわふわとしたドレスの恥ずかしさを忘れ、なんだか可笑しそうに、シロエを見上げながら手を握り替えしていて。
その左では、真っ赤になったセララが、にゃん太に優しい微笑みを返されていた。

にこっと笑ったてとらが、大きな扉を開く。
ウェディングパーティーの始まりだ。

「新郎新婦の入場です、拍手でお迎えください!」

♪Love Wing Bell

ゆっくりと、二組のカップルが、一番奥の席へと歩を進めていく。
時には手を振りながら、時には頭を下げながら。

小さな<記録の地平線>の二階が、今日だけは多くの人で埋まっていた。
ギルメンはもちろん全員参加だ。先ほど声を張り上げた直継は司会として前に立っている。年少組のみんなは、目をキラキラさせて、ミノリだけは少し寂しそうに、四人を見つめている。
<放蕩者の茶会>からは、大きな、色とりどりの花の花束が贈られた。これを用意するために、フランス、つまり欧州サーバーまで行ったというのだから、さすが<茶会>と言えるだろう。今日は、カナミやKR、インティクスやカズ彦、ぬるかんが参加している。
会場の装飾用品の用意や、受付などの様々な雑務を引き受けた<D.D.D.>からは、クラスティと高山、リーゼが参加している。μ′sを呼んだクラスティは、にやりと笑いながらも得意そうだ。
披露宴の料理の素材集めを引き受けた<黒剣騎士団>のアイザックは、副官を連れての参加だ。
<ロデリック商会>からは、ロデリックと、ケーキ担当のミカカゲが。ミカカゲは、大きな入刀用の三段ケーキを用意してくれた。手伝ったのはドルチェや<D.D.D.>の料理人、そしてセララとにゃん太班長だ。
<西風の旅団>からは、ソウジロウとナズナが。ナズナおすすめの果実酒が贈られると共に、<D.D.D.>が用意した素材を使った会場装飾も担った。
生産系ギルドからは、ミチタカが参加している。残り二人のギルマスは、今日は現実世界で仕事があるそうだ。若いものだけで楽しくやってくれ、という暖かい言葉を頂きました、とシロエは言っていたとか。代わりにといっては何だが、三パターンの衣装が用意され、素材集めのフォローも行われた。特に、集めた素材を一時保管するための倉庫は、ほとんどが彼らの協力によって用意された。もちろんμ′sの衣装やステージ設営も彼らの協力によって用意されている。
<第八商店街>からは、カラシンが。<記録の地平線>の修繕費を払ってもらう時が来ましたね、と言いながら、ダブルベッドを三台、揃えてくれた。
<三日月同盟>からは、マリエールとヘンリエッタが。マリエールと直継は現実世界で結婚式を済ませており、今日一緒に結婚クエストをクリアした。
北の地、ススキノの<シルバーソード>からは、ウィリアムが参加している。ススキノでしか採取できない素材を集め、アキバまで運んでくれた。ケーキ用のクリームやポテト用のキタアカリに似たジャガイモなどの食材も、彼らの功績によるものが大きい。レイドでドロップしたレアアイテムを詰めたプレゼントも、ギルメンから預かってきている。
一緒にアキバレイドに臨んだレイネシアも招待した。美しい空色のマーメイドドレスに、腰回りを一周している装飾のリボンとお揃いのピンク色のネックレスが映えている。護身用には、いつぞやのカラシンのイヤリングが。パーティーにしては楽しそうな彼女は、お付きのメイドのエリッサと揃っての出席だ。

予想以上に人数が集まってしまったため、披露宴は立食形式となった。
にゃん太班長を筆頭とした面々の各々の得意料理が揃っている。

みんなが拍手で四人を迎える。

最後の一段を上ったアカツキには、シロエが、
最後の一段を上ったセララには、にゃん太が、
それぞれ片手を差し出す。

真姫とにこ、凛と希は、歌に合わせてステージ上で、アカツキとセララが冠するティアラを持って一歩進む。
そのティアラを、凛はアカツキの頭に、真姫はセララの頭にそっと乗せる。
それがファンタジーへの鍵だと知らない二人は、恥ずかしそうに立ち上がり、隣に立つ各々のパートナーを見つめる。

「♪だって私でさえも…変身!」
変身、という歌詞に合わせて、結婚クエストの時と同じだった、アカツキとセララの衣装が、魔法少女のようなエフェクトを伴って、二人の身体を包む光に変わる。
そして、アカツキのドレスは一瞬で裾の長い、美しい海色のマーメイドドレスに、セララのドレスは可愛らしいパステルカラーのドレスに変化した。

「わあ……!」
「な、なんだ!?」
歓声を上げたセララと、驚いたアカツキを見て、傍らの二人も驚きに目を丸くする。
顔を上げたシロエは、クラスティと目があって、にっこりと微笑まれる。
(全く、たちが悪い)
シロエは、そう思いながらも、アカツキの方を振り返った。
こちらのドレスも可愛らしい。フリルを斜めに配したマーメイドドレスだ。
低めの身長の補正のためか、頭に冠するのはティアラと水色の花。長い髪に時折きらめくのは、ラメのような何かと、アクセサリーのパールだろう。
キラキラと輝くそれに負けない輝きを放つのは、胸元のフリルの真ん中にあしらわれた小さめのリボンと、その中心に位置する宝石。

隣では、セララが、呆けたようににゃん太を見上げていた。
こちらは、パステルカラーのふわりとしたドレス。ベーシックなタイプのもので、足元までドレスが伸びているから、セララも体型をあまり気にしなくて済むのかもしれない。
左右に大きく花があしらわれていて、その下をリボンで大きく縁取っている。白いリボンはドレスのパステルカラーに、思った以上によく映えた。

間奏に紛れて、アカツキとセララは声を掛ける。
「どうかな、恵」
「似合ってるよ、静」
愛おしそうにアカツキを見つめるシロエと、
「美しいですにゃ」
「あっ、ありがとうございます!」
頬を赤くするセララを更に恥ずかしがらせるにゃん太。

凛のソロをBGMに、式は進む。
シロエは、誓いの言葉を、と促されて、覚悟はしていたはずなのに、言葉が一瞬立ち止まる。

好きだと言うのは思いの外簡単だった。
愛していると言うのは恥ずかしかった。
君の未来を僕にください、と言うのは、
果たして伝えても良いことなのか分からなくて、難しかった。
でも、そんな過去を乗り越えた僕達が、今ここにいる。
もう、迷わない。

「ずっと、アカツキを幸せにします。――誓います」
「ずっと、主君シロエと共に在ります。――誓います」

そして、にゃん太とセララも。

「永遠を、彼女、セララとともに生きます。――誓います」
「にゃん太さんのこと、絶対に、永遠に、愛しています。――誓います」

二組の優しいキスと同時に、曲が終わった。
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