ギフト
□十六夜涙
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嘘でも、構わない。
鬼でも、構わない。
異端でも、構わない。
お前を守ると、誓ったから。
♪天つ風よ この想いは 十六夜に
☆十六夜涙
時は明和、江戸でのことである。
「十六夜(いざよい)──!!十六夜──っ!!」
夏へと変わる、季節の真ん中。
「十六夜……どこにいらっしゃるのですか……?」
♪凛とした あなたと同じ 手折られぬ花 色は匂えど
「十六夜……。」
自分の腰にある、一振りの刀を見遣る。
「……お願い」
生きていて。
そう言うことは許されなかったから、口の中だけで言う。
その手に握られているのは、
『十六夜の月を献上したに者は、金五両を』
27代将軍の思い付きで発せられた、お触れの覚え書きであった。
☆☆☆
「っ……!!」
脇腹に痛みを感じて、自棄になって、それを振り払うように刀で背後を真一文字に斬る。
「何だ……この降って湧いたような量は!?」
誰もその問いに答えず、正体不明の敵は反応の鈍くなった十六夜を斬りつけていく。
しかし十六夜も、それを技を駆使して防いでいく。
キィ、キィン!!
刀が擦れて、刀が音を立てて、
相手の一瞬の隙を見つけて、斬り込みざまに刀を奪って。
「……ふぅん?面白いわね?」
黒装束の女の声がしたのは、その瞬間だった。
「なに、が、だ、」
「中々強いのね、あなた」
「だからどうした!!」
口に何かが押し込まれて、十六夜は状況も分からぬまま、
眠りについた。
☆☆☆
とく、とく、
いや、
どく、どく、
だろうか。
鼓動が止まらなくて、不安で、不安で、
ただ、駆けていくことしか出来なくて。
「だからどうした!!」
「十六夜!!」
きっとこれは、半里先。
でも、私には確かに聞こえた。
だから。
走り続けよう。
貴方のために。
貴方を守る為。
それなら、
私いくらでも戦える。
☆☆☆
「んっ……ん?」
ふと上を見て、目に入ってきたのは、やけに黒い天井。
古い家だな、と頭のどこかで思った。
「お目覚め?」
耳障りな女の声がして、無理矢理そちらに目を向ければ、
「よぉく、眠れたみたいね?」
「……。」
見下したような笑いを向けられる。
そっと、今までの状況を整理して、頭を叩き起こす。
「……ここは、どこだ?俺をどうするつもりだ?」
(俺には、)
「ここの場所なんか、関係ないわよ。何をするか?……そうね、敢えて言うなら……支配下に置く、かしらね。」
(守りたい人が、)
「ふざけるな!!」
(ちゃんといるんだ!!)
「ふざけてないわよ?ふふ、」
女が意地の悪い笑みで、俺の頬に、
触れて、
キスを、
ダアァンッ!!
しようとした瞬間に、俺は目の前の女を蹴り飛ばしていた。
「どうなるか……分かってるの?」
「分からないし、分かりたくもないね!!」
どうする。
どうすれば良い。
武器がない。
何も無いのに。
「じゃあ分からせてあげるわ!!」
「ふざけんじゃないわよっ!!」
「和珠佐(かずさ)!!!!」
また女が近づいてきた瞬間に、ああ、夢じゃないかと思う位だ、
目の前に、
愛しい人が、
和珠佐が現れたんだ。
キイイィンッ!!
和珠佐は二振りの刀で、女の杖を押さえていた。
「渡さないわ!!私の、十六夜だもの!!」
「ならばお前が来るか?それでも構わないぞ。」
「遠慮しま…すっ!!」
双方が一瞬で刀を離し、退く。
相手の目を、見据えたまま。
「千姫、いや、戦姫?そなたの力が貰えるなら、それはそれでこいつ以上に価値があるからな。」
「だから、」
脳髄に何かを叩き込まれたかのように、和珠佐の声が響く。
『伏せて!!』
反射的に、言われた言葉を実行に移して、
そして俺は、和珠佐に抱えられたまま後ろに跳んでいた。
シュッ!!
和珠佐が何かの紐を引っ張って、
「逃げるわよっ!!」
ダアァン!!
爆発音がしたと共に、
もう一度俺の意識は、
宙の彼方へと飛んだ。
☆☆☆
「お前さ……俺のために無茶したっていうのか?」
自惚れてる、かも、しれないけど、
二代将軍秀忠様の長女と同じ名前を持つ、御三家の紀伊家に生まれたというお姫様。
と、名乗る人が、
「だって、初めて好きになった男の人だもの……失いたくない、って思うのは当たり前よ。」
「……。」
目の前で、俺に愛を語ってくれているのだ。
頭が高い、の“ず”の字もない。
男なのに女に守られたら面子が立たない、というのは、心の中にしまっておこう。
「でも、こんな身分だなんて、言うことは許されてないから……。」
代わりに、
「確かに、普通の女の子だと思ってた。」
悲しげに笑う君に、
「でも、身分とか関係なく、……俺は和珠佐を、好きになったんだ。」
「十六夜……。」
身分違いの、恋。
10年前なら、許されなかったこの恋も、
今なら許されるのだから。
だから。
「だから、今度は守らせてくれないか?俺に、お前のことを。」
「うん……うん!!」
十六夜涙は、
十六夜月夜の中に消え、
幸せの音色、
闇夜の空に余韻を残す。
♪春の余韻 輪廻の果て
fin─