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□星、草原、待宵 三題噺
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鈴の音は星が輝く音。
鈴からこぼれた音は、煌めきながら眼下の草原に降る。
大分星に近づいてきた。
爪の先ほどの欠片から、小さな小屋ほどもある塊まで、実に様々な大きさの星が
ゆったりと一方向に動いている。
色もまたそれぞれに違う。
紅蓮、橙、山吹。
薄紅、紫、濃紺。
群青、緑、若葉。
漆黒、純白、透明。
濁ったのから、透き通ったのまで。
自ら淡く発光する岩石の群れが、地上から見ると銀砂に見えるのだ。
浮遊する星の合間に、馬を巧みに操る人影がいくつも見えた。
鉦の音は星々がぶつかる音。
太鼓の音は星が唸る音。
耳を澄ますと楽の音に混じり、星同士が触れ合う音や星が動く時に聞こえる唸り
が微かに聞こえる。
鳴り物の音色は星の声を模している。
ならば先祖たちは星が輝く音を聞いたのだろうか。
馬が風を踏む振動に合わせ無心に鈴を振る。そのうちに、もう1つ鈴の音が聞こ
えてきた。
顔を上げ、音が来る方向を見定める。
「ヴァン、あれだ!山吹色に透き通った中くらいのやつ!」
待宵草の花もあんな色だった、とふと思った。
ニュイが指差す方向を見て、ヴァンは腰に下げていた角笛を唇に当てた。陽気に
吹き鳴らしながら馬首を返す。
角笛の音に導かれ、同じ星を目指し駆け寄ってきた馬は5頭。その背に乗るのは
いずれもニュイやヴァンと同じ年頃の若衆たちだ。
「おいおいヴァン、お前何お姫様乗せてんだよ!」
「きっちり男の格好してるし」
「姫君の初乗りだな」
口々に掛けられる言葉に、ニュイは肩をすくめた。男装しても友人たちの目はさ
すがに欺けなかった。
「こんばんは、夜の姫」
「だからなんで姫なのさ」
1人の青年が早足で馬を寄せてきた。姫と呼ばれ、ニュイが言い返すのはもはや
挨拶代わりになっている。
「僕らの年代で唯一の女性がニュイだからだよ」
「だからって」
「さしずめヴァンは風の騎士かな」
「うっせーぞエトワール」
ヴァンが唸る。青年、エトワールはそんな反応に小さく笑い声を漏らした。
「で、風の騎士殿。獲物はどれですか?」
「お前にも聞こえてるはずだろ、星の申し子」
星の申し子と呼ばれたエトワールは、瞬間煌めいたその瞳を山吹の星に向けた。
「よく共鳴しているね。ここ最近で一番の星だ」
そう評された星は、鳴り物の音を増幅し周囲の星々に反響させていた。エトワー
ルは左手に吊るし持った鉦を軽く叩き、その音色が木霊になって返ってくるのを
微笑して聞く。
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