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□星、草原、待宵 三題噺
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風が吹きすぎた。
黄色い待宵草の花が一斉に風になびく。星灯に照らされているからだろうか、仄
かに青白い燐光を帯びているようにも見える。
月はない。
透き通る漆黒の夜空に銀砂を流したような満天の星空。
絶好の星狩日和だ。
鳴り物の音が草原の向こうから微かに聞こえてきた。地平線に松明が揺らめき始
める。
その松明の間から何かが飛び立った。
夜明色の馬。
夜風に乱される鬣や尾に、仄かに東雲の光を宿した馬が5、6頭。
蹄は音もなく風を踏み、軽やかに空へ駆け上がっていく。
その中の一頭が近づいてきた。
「ニュイ!」
風と同じ速さで馬を駆る青年は悪戯っぽく目を輝かせて叫び、手綱から片手を離
してニュイに差し出した。
その手と自分の手を打ち合わせようとニュイは手を伸ばす。
打ち合わせるだけだと思ったのだが。
手が触れ合ったと思った瞬間、手首を強い力で引かれニュイの体が宙に浮いた。
小さく悲鳴を上げて目を閉じたニュイは、柔らかいところに着地したのを感じて
恐る恐る目を開いた。
自分が腰掛けているものは規則正しく動いている。
最初に見えたのは馬の鬣だった。
「…え」
「暴れんなよ、ここ馬の上だからな」
背後から囁きかけられ、ニュイは勢いよく振り向いた。
「ちょっと、ヴァン!?」
ヴァンと呼ばれた青年はきつく睨みつけられ苦笑する。
「だってお前、星狩に行きたいって言ってたじゃん」
「でもっ、女を連れていくなんて」
「男装してるくせに」
言葉に詰まったニュイの腰にヴァンはしっかりと腕を回した。
「その髪の毛、帽子にちゃんと入れとけよ」
「分かってる」
束ねた髪を男物の帽子に押し込めながら、ニュイはヴァンの様子を窺った。
星狩は男の仕事だ。夜空を駆け回るのは危険が伴うから、男しかやらせてもらえ
ないのもニュイとて納得はしている。
でもやっぱり不公平だと思うのは諦めきれないからだ。
美しい馬を駆り、風に乗って空を翔ける。
幼なじみのヴァンが羨ましくて、何かの手違いで乗れないかと男装して。
ようやく星の海に乗り出せた。
「…ありがとう」
素直に言いづらいお礼はぶっきらぼうになってしまった。ヴァンは喉の奥で笑っ
ていた。
後ろから鳴り物を手渡された。棒に10個の鈴がついている。
「頼むわ」
「よし」
短く答え、ニュイは鈴を真横に打ち振った。
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