ログ・ホライズン
□花月の下で
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花月の下で
「主君、主君」
「……ん……?」
思わず顔を上げれば、そこにはアカツキ。
「主君、書類の整理を諦めるか、休憩を取ってはどうだろうか」
「僕、寝ちゃってたのか……。そうだね、休憩するよ」
「主君……。」
少し考えた後、アカツキはおもむろに行動に出た。
小柄な身体に秘められた《暗殺者》の力が、シロエを引きずっていく。
「ちょ、ちょ、アカツキさん!?」
「主君はそう言っておいて、休憩した試しが無いからな。強制連行だ」
「え、ちょ、ちょっとまっ、」
《記録の地平線》を設立したからといって、アカツキへの耐性が付いたわけではない。
戸惑うシロエを、アカツキは容赦なく引っ張っていく。
「あっ、アカツキさん!?」
「主君はギルマスなのだ。休息を取るのも義務だ、この景色を見るのも義務だ」
「え?」
戸惑うシロエの前で、アカツキは屋上への扉を開く。
「わぁ……」
そこでは、星空の下に、花が咲き誇っていた。
☆
「二日前に皆で買い物にいっただろう」
「ああ、うん、そうだね」
シロエの体感時間では、もう随分と前の話である。
「その時に種を買ってきた。皆で植えて、せっかく咲いたのに、主君はいつまでたっても気付いてくれなかったからな」
拗ねたように言うアカツキの言葉を聞いて、結局のところ、彼女も年相応の少女なのだと、シロエは実感した。
「ごめんごめん」
「主君、ちっとも悪いと思っていないだろう」
「そ、そんなことないって」
アカツキの視線から逃げるように、シロエは屋上に寝転んで、星空を見上げた。
「綺麗だなぁ……」
「うん」
「ああ、そういえば」
ふと思い付いて、隣に腰を下ろしたアカツキに声を掛ける。
「五月の満月って、花月って言うんだって。」
「そうなのか」
「最も、日本の話で、エルダーテイルの世界の話じゃないけど……。」
「ここはアキバの街だ。良いのではないか?」
「そう、かな」
「ああ」
はっきりと肯定の意を示されて、シロエは少し、戸惑って、照れて。
唐突に思い付いて、自分のバックを漁る。
「咲いてるの取ったら申し訳ないし、枯れちゃうから……。」
ぽつりと呟いて、マーガレットのような白い花を探し当てる。
「はい、これ。こないだのお祭りのときに、アカツキに、って買ったんだ」
そう言いながら、アカツキに花のついた髪飾りを付けてやる。
闇夜に溶けてしまいそうな美しい黒髪に、白が一層映える。
「主君……ありがとう。大切にする」
アカツキは、真っ赤になりながら言って。
「うん。僕こそ、ありがとう」
ようやく一言だけ返して、シロエはまたアカツキの隣に寝転んで、星空を見上げた。